さて、孫はアメリカで実業家として名乗りを上げるために、バークレー入学後は、アイデア発明に時間を割くようになる。なぜ、アイデア発明なのか。それは、著作権や特許を得るようなビジネスアイデアを考えつけば、最も効率よく資金調達することができると考えたからだ。そして、彼は、毎日5分間だけアイデア発明の時間をとる。読者の方にもしかしたら「たった5分?」と思った方がいらっしゃるかもしれない。僕もそう思った。でも、この5分は常人の5分ではないのだ。孫正義の持つ圧倒的に集中した5分なのだ。そしてアイデア検討についても様々な手法を用いた。例えば、様々な単語に自分の知識量などの重みづけをして、それを組み合わせるもの。その際にコンピュータを用いた。今となっては普通かもしれないが、当時はコンピュータをそのように利用できる人が少なかったのだ。そうやって生まれたのが、シャープに売り出された翻訳機である。そして、孫はアイデア発明の方法が三つに分類されることを知った。
①問題解決法。何からの問題が生じた際に、三段論法で解決策を考える方法。
②水平思考。コインの裏返しで考える方法に近い。従来丸かったものを四角や三角にしてみることでアイデアを考える。
③組み合わせ法。既存のものを組み合わせる。
僕は、これらを孫正義の発明三原則として覚えている。
孫正義のすごさは努力量だけにとどまらない。人を惹きつけて説得する力にも長けている。先ほど話に挙がった翻訳機の開発にも素晴らしい教授が携わっているし、日本に帰ってからも上新電機やハドソンという業界内で力を持っている会社を味方につけている。彼らが孫正義に対して共通的に感じた魅力、それは事業やビジョンを熱く丁寧かつ論理的に語る力である。それがあるからこそ、今は大したことない人間でも、すごいことを将来的にやりそうだと感じさせたらしい。結果的に孫は、ギリギリのところで資金を集めて大きな成長を遂げている。必死に考え抜いていれば、資金調達は困難でないというのが孫の主張だ。僕自身は、相手を惹きつける力がそこまでない。が、素直に自分が成し遂げたいことを話すと、人は共感して、そのために力になってくれるという実感はある。これからもこの力を磨きたいと思った。
孫の考え方で響いたものをもう少しだけ紹介したい。彼の弟が大学受験の勉強計画を立てていた際のアドバイスである。弟は一年を十二で割って、各月の計画を立てた。まずその考え方に孫は激怒した。孫は、十四で一年を割るべきだと言った。そうすると一週間に一日くらいはバッファができる。そこで心のゆとりを持つと同時にリスク対処ができるような体制をとるべきだと言ったのだ。弟は、それに賛同し計画を修正した。そして、達成したもの・行動途中で終わったもの・できなかった(諦めたもの)と分類わけしながら、進めた。ここで孫がまたしても注意した。なぜ、できたものとできなかったものにばかり振り返り時間を割いているのか、と。できるのは当然だし、やっていくなかでできないと振り切ったものも判断として悪いとは思わない。ただ、中途半端になったものに対しては、なぜそうなったのか入念な振り返りが必要だと主張したのだ。これは、諦めるものに対する判断ロジックがある程度しっかりしている人に対する注意だなと思った。それと同時に、確かにここに対する振り返りは、おざなりになりがちかもしれないと反省した。
圧倒的な努力と集中力を中心に記述してきたが、それ故に起こった結婚式の出来事は、孫正義らしくもあり、愛らしくもある。とてもほっこりするエピソードなのだが、ブログで書いてしまうと鮮度が落ちてしまうだろう。なので、ぜひ皆さんにも読んでいただきたいと思う。