陽気なギャングが地球を回す(伊坂幸太郎)を読了したので、感想や書評[レビュー]
『陽気なギャングが地球を回す』を読了したので、その感想を投稿したいと思います。
*あらすじ
確実に他人の嘘を見抜くリーダーを筆頭に、正確な体内時計の持ち主、演説の達人、天才スリという面々で組織されたギャング団が活躍する長編サスペンス。著者は、言葉を話すカカシ「優午」が殺されるという奇想天外なミステリー『オーデュボンの祈り』や、レイプという犯罪の末に誕生した主人公「春」の苦悩を爽快なタッチで描いた『重力ピエロ』など、作品ごとに個性的なキャラクターを生み出してきた伊坂幸太郎。特異な才能を持つ4人の男女が、思わぬ事態に巻きこまれていく本書は、その真骨頂ともいえる痛快クライム・ノベルだ。
市役所で働く成瀬、喫茶店主の響野、20歳の青年久遠、シングルマザーの雪子たちの正体は銀行強盗。現金輸送車などの襲撃には「ロマンがない」とうそぶく彼らの手口は、窓口カウンターまで最小限の変装で近づき「警報装置を使わせず、金を出させて、逃げる」というシンプルなものだ。しかしある時、横浜の銀行を襲撃した彼らは、まんまと4千万円をせしめたものの、逃走中に他の車と接触事故を起こしてしまう。しかも、その車には、同じ日に現金輸送車を襲撃した別の強盗団が乗っていた。
映画化されている作品ですが、私はその映画を見ていません。
映画について調べてみると、映画と小説ではストーリー展開が違うようなので、映画を既に見終えている方でも、この小説を楽しむことができるかもしれません。私は、小説を読んでから映画に興味を持ったので、時間ができたらレンタルしてみようかと思います。
この小説では特殊能力を持った4人の強盗(4人で1グループ)が、様々な事件に巻き込まれてしまい、その解決を目指す作品となっております。
ちなみに、その特殊能力はエスパーのような突飛のものではなく、「もしかしたら、そういう人間がいるかも」と考えられるレベルのものです。個人的には、その突飛すぎない特殊能力とそれぞれの強盗の愛すべきキャラがツボでした。
特にお気に入りだったキャラは、演説が得意な響野です。他のキャラの能力は常に何かの場面で約に立っているにもかかわらず、響野の能力はさほど役に立っている感じがしません(笑)
どちらかと言うとメンバーからはお喋り好きで嘘ばかり、口からでまかせの、その能力を煙たがっている様子が見て取れます。でも、なんだかんだ、そんな響野のことをみんなが大好きな様子が笑えましたし、そんな響野が最もお気に入りのキャラになりました。
この小説で個人的に最も考えさせられたテーマは、これです。
「なるほど」雪子が納得したように呟いたが、すぐに地道を指差して、「でも、たぶん、それでも、この人は裏切るわよ」と言った。
「それでも地球は回る、というのと似ているね」久遠は言う。
「そうね。地球が回るように、この人も裏切る。写真があっても、都合の悪い写真をわたしたちが持っていようと、いざとなればこの人はわたしたちを裏切る」
「どうしてだ」成瀬が言う。
「臆病は理屈じゃないから」雪子はしっかりとした声でそう言った。
説得力があった。臆病は人の単純な性格や癖のようなものではなくて、もっと本質的なものかもしれない。危険を避けようとするのは動物なら当然のことで、それをちょっちやそっとの理屈で、ましてや怪しいカメラで撮影された写真だけで、抑えられるとは思えなかった。
地道を仲間に引き入れようとした時に雪子が反対するシーンですね。
この『臆病は理屈じゃない』という言葉にとても共感しました。
私は昔から臆病(というかビビリ)で、幼稚園の頃から、なんとなく力を持っていそうな奴に近寄ることができませんでした。たぶん今も本質的には変わっていないと思います。どうにか、それを隠していたり、取り繕ったりはできるようになったのかな、と。
この「なんとなく力を持っていそうな人」を避けるのは子どもの内だけで止めてしまいたいものです。欲を言えば、もっと論理的に色んな情報を得て、その人がどう危険で、どのような場面で危険になるのかを判断すべき。それが大人の一種の力なんだと思っていました。しかし、現実的にそんな適切に相手との力の差を測ることなどできないことが多いし、「こいつは怖い」と思ってしまえば、相手から歩み寄ってでも来ない限り、そのイメージって覆せないんですよね。確かにそこには理屈なんて無いんだろうなーと思います。少なくとも周りから見ている分には。
ある種、ビビリの理屈、みたいなもんですね(笑)
このビビリの理屈を先読みして作戦を成功させた成瀬のカッコよさが光っている作品でもありました。