2017-12-17 カラスの親指(道尾秀介)を読んだ感想・書評 小説 カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) posted with ヨメレバ 道尾 秀介 講談社 2011-07-15 Amazon Kindle 楽天ブックス 自分の罪を隠しながら、自分の罪を償おうとする部分は、壮大なメタファーとしてとらえることができるだろう。人は誰しも自分なりの罪を抱えている。それは本書のような詐欺行為や人を自殺に追い込むような脅迫ではない。法的に罰せられるレベルの行いが罪とは限らない。自分自身が「やってしまった」と悔恨の念に苛まれるのであれば、それもその人の中で定義されるひとつの罪なのだと思う。かく言う私も過去にやってしまったと思うことに対していじいじと考え続けてしまうタイプだ。人間は自信が知覚している以上に多くのことを考えている。一人でいるときに、ふと過去の行いを思い返してしまうときがある。そんなとき私はどうすればいいのかわからなくなる。過去の出来事を塗り替えることなんてできないからだ。だから自分の中で折り合いをつけるしかない。しかし、その折り合いのつけ方がわからない。だから、その出来事に関係する人に優しくしたりする。これを意識的もしくは無意識的にすることで、記憶の上塗りを図ろうとする。これは私だけの経験というよりは、一般的に行われていることだと思う。何か弱みのある出来事に直面したとき、人は自分の中で納得できるポイントをどうにか作りだそうとするのだ。それは客観的に見ると合理的な行動ではないかもしれない。しかし、その人にとっては大切な自己防衛のための行動になるのだ。 思えば本書の登場人物はこのような行動をとっている人が多かったと思う。それぞれが自分のダメだったと思うところを表面的には隠しながら、でも忘れられずにいて、どうにかしようともがいている。今回のきっかけを作った人間だって、行動原理に立ち返ればそのような念がある。しかし、彼の違うところはその点を認めていることだと思う。自分がどう思っているのかを認めることができる人間は強い。自分に不満があったときに、心情と行動の面で自分がどう変わればいいのかを素直に考えることができるようになるからだ。過去の私はそうなれなかった。負けず嫌いだったし、成長するためには負けず嫌いで認められないことも大切だと考えていたからだ。しかし、そうではない。自分の不備を認めたうえで、負けたくないと思うことはできるのだ。自分が変わるきっかけの出来事は探すのではなく、作り出さなくてはならない、そんな風に思わせてくれた作品だった。 ○読後のおすすめ ノルウェイの森 上 (講談社文庫) posted with ヨメレバ 村上 春樹 講談社 2004-09-15 Amazon Kindle 楽天ブックス カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) posted with ヨメレバ 道尾 秀介 講談社 2011-07-15 Amazon Kindle 楽天ブックス