ロブ ゴーフィー,ガレス ジョーンズ 英治出版 2017-01-31
ある日、わたしの所属するチームにひとつの問題が発生した。当時、わたしはリーダーという役割を与えられていなかった。ある程度その業務に精通していたので、チームの中でも裁量はあったのだが、リーダーとサブリーダーが別に存在していた。そんなときにリーダーの取った行動がとても印象的だった。まず何をすればその問題が解決に向かうのかを明示して、各人がとるべき行動や状況を記録する方法を文面化して伝えたのだ。メンバーは彼の示した道を進むだけでいいといった具合だ。その流れがとても鮮やかで、わたしは素直に関心してしまった。リーダーという言葉に傲慢さのような意味合いを勝手に包含していたわたしは一気に言葉の解釈を逆転させた。そして、なお驚いたのは、その人が契約されて働いていた人であるという事実だ。SIerの業界特有かもしれないが雇い入れる方がリーダーとしての成長を求められる。しかし、この人はその慣習を飛び越えてリーダーとしての気質を示したのだ。
本書に記されていることはこの事例を頭で整理するのに大変役立った。それについて以下に書き記す。
まず支配について三分類にわけることができると記されていた。①伝統的支配、②合法的支配、③カリスマ的支配、この三つだ。①は特に日本企業で強い意味合いを持つかもしれない。先日も神戸製鋼の不祥事が明るみに出たが、これも「不正」という違反行為を超えて、伝統的に許容をもたらす支配と秩序があったとみなすことができる。私たちは、その場を支配する伝統的な空気を読みといて行動に移す必要がある。②はルールのことだ。大人数の行動を把握するときには徹底的なルール作りが必要になる。もちろん自由を与えるときにも、これが必要になる。グーグルは20%ルールで、業務における20%の自由を合法的に与えたのだ。勝手に自由にさせているわけではない。そして③がリーダーによる支配だ。
このリーダーによる支配で必ず意識しなければならないことがある。それはリーダーの視点だ。リーダーはチームの目的を達成させるために行動する必要がある。そのためリーダー個人の内面的特性にばかり目を向けていてはならない。あくまでもチームという複数人との関わりでリーダーの業務は発生するし、その目的を達成させることがリーダーの仕事だからだ。カリスマという言葉に惑わされてはいけない。リーダーの務めはカリスマ的要素を発揮することではなく、チームの目的を達成させることだ。
一方で優れたリーダーは自分らしさを発揮するというのが本書のテーマだ。この自分らしさの発揮のために就活ばりの自己分析を行い、自分自身のすべてを把握しようとする人がいるそうだ。しかし、完璧な自己理解は必要ないし、そもそもそんなことできないだろう。その代わり、自分の働きがチームや関係者に対してどのような影響を与えるのかは把握しておく必要があるだろう。ここでも意識することはチームとしての働きなのだ。そう考えると知っておくべきは自分の影響範囲だけではなく、チームメンバーの影響範囲も含まれているのかもしれない。個人の特性に主観を置く必要はないが、それぞれが他に影響を与えることは承知の事実なのだから。
これらの影響理解も含めてリーダーには状況感知の力が必要である。これをまた三つの要素に分解してみる。①些細な空気の変化も含めて観察し認識する。これは伝統的な支配の理解や、人間関係の変化についての理解を示す。もちろん業務的な問題も含むはずなので、業界の変化についても同様に鼻を利かせておく必要はあるだろう。こうやって変化を知ることで一番に動き出せる準備をしておかなくてはならないのだ。②行動し適応する。これはもちろん変化に流されることを意味する言葉ではない。あくまでも置かれた状況下で最大のインパクトを見せるために振る舞うことを意味するのだ。③状況を変える。適応して終わりにはならない。その状況が悪いものであるのならば、リーダーは変化を与えるためにチームの働きを変えなければならない。
さて、リーダーがこのような変化を起こすためには、フォロワーの信頼が必要になる。そのフォロワーがリーダーに求める四つの要素についてもまとめたい。①本物であること。これこそが本書の主題であった。嘘っぽくない、でもこの人にしかない人間性に惹かれてフォロワーはリーダーを信頼する。リーダーは自分の特性について理解し、それを活かしたコミュニケーションを取ることで、フォロワーにそれを認識させるのだ。ただし、着任後にいきなり自分らしさを開放するようなことはしないこと。最初はそこの文化を知って適応することが大切だ。その後、優れたリーダーは自分らしさを打ち出し、状況に変化を与える。②認めてくれること。誰もが自分の働きについて認めてほしいという承認欲求を抱いている。適切な働きには適切なコメントを残すようにしよう。③胸の高まりを呼び覚ましてくれること。フォロワーとの距離感によって緊張感や高揚感を生み出し、ルーティンから脱するのだ。また、明確なビジョンを生み出して、それに向かって一心に行動することも良い影響を与えるだろう。④包み込んでくれること。組織や社会的なつながりを通じて、その人の人間性を認めてあげることが大切だ。単に仕事を離れても仲良くするとかそんなことではない。その人を社会の中から見つけてあげるような言動を心掛けたい。
ロブ ゴーフィー,ガレス ジョーンズ 英治出版 2017-01-31