本を読むこと-読書から何かを学ぶためのブログ-

読書のプロフェッショナル目指して邁進中。小説からビジネス書まで取り扱うネタバレありの読書ブログです。読書によって人生を救われたので、僕も色んな人を支えたいと思っています。noteでも記事を投稿しています。https://note.mu/tainaka3101/n/naea90cd07340

7日間企業(ダン・ノリス、平野敦士カール)を読んだ感想・書評

 

7日間起業――ゼロから最小リスク・最速で成功する方法

7日間起業――ゼロから最小リスク・最速で成功する方法

 

 

 アメリカのアマゾンでランキング10部門中3部門で1位を取った一冊。何度も起業しては失敗を繰り返したという著者が、成功するため(現在のビジネス)に行ったことや、失敗した事業と成功した事業の違いをまとめた一冊だ。以下で僕が興味を持った箇所をメモがてら記述していきたいと思う。

 まず最初に著者はスタートアップに大事な三要素を提示している。

①アイデア――これは3要素の内の1つにすぎないということを自覚しなければならない。この要素に対して労力を割きすぎた結果、失敗した経験からきているようだ。結果は頭の中の顧客が教えてくれるわけではないのだ。

②エクスキューション――本書では事業を市場に早期投入することを推奨している。顧客の反応を早く知ることが大切だからだ。確証のない検証や推測によるプロダクトの改善にばかり時間を費やしているのならば、可能な限り早くローンチするべきだ。七日間で起業することを提唱しているのもそのためだ。

③ハッスル――最も顧客を引き寄せそうな行動に注力すること。顧客にどうすれば告知できるのか、どうすれば製品に価値を感じてもらえるのか。

 

 さて、これらの3要素を活かしつつ、企業を成功させるために、提唱されるのが7日間企業である。ちなみに著者もこの7日間企業を実施し、現在成功を収めている。これは著者のビジネスが切迫した状況となり短期間で収益を確保するビジネスを考案する必要に迫られたからだ。(もちろんただ目の前の金の臭いにだけ食らいついたわけではない)。そしてそこで7日間企業で紹介されている手順にのっとった企業をしたようだ。

・1日目

 優れた独立企業アイデア9要素を使って考え付いたアイデアの精査を行う。これに値しないアイデアは実践しないのだが、アイデア自体はこの日に考えてもいいし、著者はある程度温めていたアイデアがあったようなことを文中に記している。

 ①毎日楽しめるタスクであること――その業界や製品だけでなく、そのビジネスを拡大させることに楽しみを見出すことができるかどうか。

 ②プロダクトと創業者の相性――プロダクトとマーケットとの相性ばかりが語られている。創業者が楽しんで取り組めることや、強みを発揮できることは事業の成否に影響を与える。

 ③拡大可能なビジネスモデル――顧客にどのように請求するのか、そして月日を重ねるごとに成長できる合理的な道筋を見つける。小さなスタートから大きな市場へ、この点はピーター・ティールの提唱するモデルとも重なる。

 ④創業者がいなくても利益が上がる、利益を生み出すビジネスモデルをつくる

 ⑤売りになるアセット――第三者がお金を出せると価値を認めるアセットを構築する必要がある。またどのようなアセットをその製品が生み出せるのかを考えて、それを取り組みに活かす。

 ⑥大きなマーケットポテンシャル――小さなマーケットから、大きなマーケットへ出る方法を考えておく。

 ⑦ペインとプレジャーによる差別化――顧客が最も大切にしている要素において飛びぬけた優位性を持つようにする。苦しみの感情を与えずに、喜びの感情を与えることを心掛ける。

 ⑧すばやくローンチする能力――すばやくローンチして修正できるアイデアこそゼロからの企業にふさわしい。自分に潤沢な資金や資産がないのならば、特に本書の教えは役に立つ。

 

・2日目「MVPってなんだ」

 MVPとは製品の必要最低限の機能を表している。基本的にはマーケティングに関して考えることになるのだが、内容は実はそんなに難しいことではないのかもしれない。なぜならば、ここで考えるのは自分たちが考えたアイデアの中で顧客にとって本当に必要な部分はどれなのかを考え、どうやってそれを顧客のもとに届けるのかを考えるだけだからだ。もちろんそれが難しいのだけど、往々にして人は難しく考えすぎる。可能な限り、機能をシステマチックにしようとして、時間を費やしてしまったり、外注することで余計なセッションをもたらしたりしてしまう。本書の主張としては、最初のうちは顧客が求める最低限の機能があればいいし、それが手作業でできるのならばそれでいい。それよりも早くローンチして顧客の反応を知ることに時間を費やすべきなのだ。

 

・3日目「ビジネスの名称を決める」

 ここでビジネスの名称を決めるが、ここに時間を費やす必要は全くない。いずれ修正することが可能だし、最も重要なのは名称ではなく製品の中身と販売にあるからだ。ある程度既存ではないなどのチェックをクリアすれば問題ないだろう。本書にはそのチェックリストも用意されている。

 

・4日目「1日で、100ドル以下でwebサイトを構築すべし」

 ワードプレスを使って自社サイトをここで構築する。文章を読んでいると、ここでは本当に簡易的なサイトを用意しているようだ。無駄なことに時間をかけないで、とにかくローンチして利益を出すという重要な事項への注力を促している。もちろんローンチ後にサイトも適宜修正を加えていくようだ。

 

・5日目「マーケティング10の必勝法」

 ここでは様々なスタートアップにおけるマーケティングの必勝法が記されていた。重要なのはローンチ後1~2週間の計画を立てること。著者の提唱する10の必勝法を知りたい方はぜひ本書を購入していただくといいだろう。

 

・6日目「目標を立てる」

 決して「いいね」の数のようなものを指標にしてはいけない。財務諸表のような具体的な数値を目標にして、数値の向上を実感しやすい方法を考えておくと、モチベーション向上にもつながるだろう。

 

・7日目「ローンチする」

 ついにローンチするときだ。ここまできてもやることは変わらない。顧客にとって必要なことを考え、それだけを実装することを考えるのだ。今までに実行してきたことを効率よく回していくことで製品をグレードアップさせていくのだ。

 

 メモ代わりという思いで僕個人としてはかなり詳細に記述したつもりだが、細かなところや僕が既に知っていることなんかはここにはあまり記述されていない。それでも中途半端に書くよりは……と七日間の大まかな流れぐらいは記述してみた。この投稿を見て興味が湧いた人や自分にとって必要かもしれないと思った方には、ぜひ購入していただきたい。なによりも起業で失敗した後に成功しているという事実を本にして周知してくれているのは希少で大切なのだ。

 

〇読後のおすすめ

 

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

 

  スタートアップを始めるのならば本書を抜きに語ることはできないだろう。プロダクトの軸を決めるうえで大切な考え――「隠された真実」に対する考え方は、ビジネスを抜きにしても興味をそそられること間違いない。

 

bookyomukoto.hatenablog.com

  堀江貴文が起業するに至った経緯を過去の経験を交えて語っている。彼がなぜ働くのか、なぜそこまでストイックに様々な事業に注力しているのかを知ることができる。堀江貴文人間性の理解にもつながると思う。

 

7日間起業――ゼロから最小リスク・最速で成功する方法

7日間起業――ゼロから最小リスク・最速で成功する方法

 

 

首折り男のための協奏曲

 

首折り男のための協奏曲 (新潮文庫)

首折り男のための協奏曲 (新潮文庫)

 

 

 伊坂幸太郎の短篇集。一冊にまとめるために書かれた作品ではないために実に多様な色合いを見せる一冊になっている。生粋の伊坂フリークは「これだ!」となるかもしれないし、逆にこれをきっかけに伊坂作品に手を出した人からすれば「これは……?」となるかもしれない。反応は人それぞれかもしれないが、エッジの利いた物語ばかりで、僕は気が付けば次のページを捲っていた。

 なぜここまで多様な短篇作品が集まったのかと疑問を抱いたのだが、「ホラー」「恋愛」と多様なテーマ性の雑誌に投稿した作品を集めたから、出来上がった一冊らしい。伊坂幸太郎の短篇集といえば、あるテーマ性のもとに出来上がっているものが多い。もしかしたらこのギャップは読み手に、(もしかしたら伊坂幸太郎が好きな読者に対しても)戸惑いを生じさせるかもしれないが、個人的にはテンポよく様々な作品を読むことができて楽しかった。

 さっきから遠回しに伊坂幸太郎らしさを欠いていると主張しているような文章を打っているような気もするが、彼らしいアイデアやトリックは健在だ。例えば、『僕の船』では、確実性はない推測だからこそ、時間をかけた夫婦に訪れるからこそ、ほろりと泣かせる要素を伊坂印のアイデアが演出している。寝たきりの夫はその答えを知らない。依頼者の絵美がどう考えるかは明記されていないが、その涙の軌道が答えを知らせているようにも思える。

 『人間らしく』『相談役の話』はかなりホラー要素を備えた作品だ。前者ではいじめ問題とクワガタが持つ攻撃性を交えて話を展開させている。読んでいる最中には謎を呼んでいた部分が、読後には「なるほど」と納得させられる。一方で、生き物がもつ攻撃性への不安は消えない。そこが妙な冷たさを感じさせるのだが、「神様はたまに見ている」という考え方が「まあ、なんか、がんばるか」という思いを抱かせるし、個人的には頑張っているのに報われないと思ってしまう自分を納得させる言葉になった。後者は結局何が何だかといった感じなのだが、それを含めてヒヤリとさせる感覚を読み手に抱かせる。心霊写真という日常的に恐怖の対象として語られてきたものを使っているのも恐怖の演出に一役買っているのだろう。

 『月曜日から逃げろ』は二度読みたくなるようなトリックを含んだ作品で、最も伊坂幸太郎らしさが表れている作品だろう。読んでいて見た覚えのない単語が出てきたときに「あれ?」となる自分の感覚がおかしいのかと自分を疑ったのだが、途中で「あーなるほど」と納得させられた。

 『合コンの話』では何度も笑わせられた。おしぼりの使い方やドリンクの飲み方で隠れた意思疎通を図るのは、何か一つぐらい使いたくなる。それぞれの思惑とか考え方が、実験的な文章に表現されていて、それも面白かった。「こんな文章あり?」と思う瞬間もあったが、それがしっかりと面白さにつながっているのだから良いだろう。

 

〇読後のおすすめ

 

ジャイロスコープ (新潮文庫)

ジャイロスコープ (新潮文庫)

 

  伊坂幸太郎の短篇集、かつ本書のように多様な設定やトリックが楽しめるものだ。一作一作のクオリティが高く、何度読んでも飽きがこないなあと実感させられている。

 

bookyomukoto.hatenablog.com

  ジャイロスコープをすでに読了している読者の方に向けて書いた記事である。

 

首折り男のための協奏曲 (新潮文庫)

首折り男のための協奏曲 (新潮文庫)

 

 

本日は、お日柄もよく(原田マハ)を読んだ感想・書評

 

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

 

 

 電車内で頻繁に見かける広告があった。それは他の広告とは何かが違っていて、身動きがとれなくなるまで人が詰め込まれた満員電車の中で、僕の目を引いた。大体の車内広告は仕事に向かう男性・女性を刺激するものばかりだ。その中に小説の広告があるのが意外だった(実は他にも小説の広告はあったのだが、そのとき初めて気が付いた)。それが本書である。読み始めて、車内に本書の広告が設置されている理由が分かった。本書はビジネスマンにおすすめしたくなるお仕事小説だったのだ。

 お仕事小説とあるが、そのテーマはずばり「スピーチ」だ。主人公のこと葉が、片思いをしていた幼馴染の結婚式で出会ったスピーチライターとの関わりを通じて、スピーチが世の中や人に与える影響を描いている。

 物語中でこと葉が出会う人や言葉の数は紹介しようとしてもしきれないので、個人的に興味をもったものを取り上げたい。それはライバルでもあるワダカマが師匠と仰いでいる北原の取り組みだ。人に対して言葉を発するのならば、相手の言葉をとことん聞く必要がある。これはとても大事な考え方だと思う。文中ではあまり述べられていなかったが、僕はこれに加えて姿勢も大切になると思う。相手が話したいことを話すことができる環境を用意して、相手の言葉の背景に何があるのかを知ろうとする姿勢が、だ。人の話を遮って、もしくは相手に自分が考えたコメントを聞かせるためだけに会話をしている、そんな人を僕自身が何度も見てきた。全ての会話においてこれを意識する必要はないが、全く意識しないで大切な場面をやり過ごしてしまってはいないだろうか。

 本書は上述したように、スピーチライターを題材に使用したお仕事小説である。最終的に政治の世界まで巻き込んで、物語を展開させたことには驚かされたが、ストーリー展開自体にはどこか既視感がつきまとう。「既視感」という言葉を使うとあまり良いイメージをもたらさないかもしれないが、これは悪いことではない。大枠のストーリーに既視感があるからこそ、スピーチや小説自体が伝えたいことを読者が吸収しやすくなることもある。もちろん何でもかんでも見たことがあるような展開を見せておけばいいなんてことはないし、内容にも関係があるとは思うのだが、本書ではそれがいい方向に働いているなあ、と思った。

 そういえば僕のゼミの教授もスピーチやプレゼンがとてもうまかった。教授は特別な練習をしていたわけではなかったと言っていた。僕が思うに教授にとっては、絶対にこうだと信じていることを適切に伝える手段を求めた結果だったんだろうな、と振り返っている。あくまでもスピーチの技術だけを盗んでいても、そのようなテクは身につかなくて、本当に自分が話す内容に思い入れがあるからこそ生み出される感情もあるのだと思う。

 本書は自然と瞼が熱くなるようなまっすぐな小説で、これ自体がとても良くできたスピーチのようだった。

 

〇読後のおすすめ

 

まんがでわかる 7つの習慣

まんがでわかる 7つの習慣

 

  お仕事に関する物語、お仕事漫画であれば僕はこれが一番好きで、全シリーズを購入している。七つの習慣についてうまくまとめてあるし、お話自体も面白いから何度読み返しても負担にならない。

 

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

 

 

陰の季節(横山秀夫)を読んだ感想・書評

 

陰の季節 (文春文庫)

陰の季節 (文春文庫)

 

 

 横山秀夫のデビュー作である「陰の季節」を読み終えた。横山秀夫といば、警務部にスポットを当てた警察小説が有名な小説家で、本書でもその特徴が存分に発揮されている。また後の横山秀夫最大のヒット作となる「ロクヨン」の舞台となるD県警は本書でも描かれているので、興味を持った人にはぜひ読んでいただきたい。

 上述したように横山秀夫の作品は刑事ものという枠にとらわれない警察小説であり、いわゆる管理部門に焦点を当てた、内部的な事件の解決が主となることが多いように思える。特に本書はその色合いが強くて、内部的な問題を世間に知らせないために、もしくは自分の管轄外に漏れないように働きかける場面が何度も出てくる。これらの背景から横山秀夫作品では心理的な葛藤や駆け引きが事件の流れを大きく作用することが多々ある。僕個人が思うに、おおよそのストーリー展開は世の中で語られているし、小説という媒体の良さを出すためにも登場人物の心理的な動きをしっかりと追う横山秀夫の小説を僕は好きだ。それが普段はあまり関わることができない警察内部の人間なのだから尚更面白い。

 最後に一つ。僕は小説の中でも、ある舞台をもとに書かれた短篇小説が大好きだ(連作ものとかも含む)。しかし近年、短篇を扱う新人賞は減少傾向にある。それ故に短篇を頻繁に執筆する小説家の数も少なくなってしまったように思える。ネットという媒体もあるが、個人的には賞金が出て、賞と編集の指導がつく出版社による短篇小説の新人賞がもっと充実すればいいのにな、と思うのだ。

 

〇読後のおすすめ

 

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

 

  横山秀夫最大のヒット作だろう。本書でも「陰の季節」で描かれているD県警が舞台で、エースの二渡も登場する。上下巻の長編小説で、そのリアルな描写に触れていると、この出来事が実際にどこかで起こっているのではないかという錯覚を起こしそうになるほどだ。

 

 すでに「ロクヨン」を読了している方に向けた記事である。

 

陰の季節 (文春文庫)

陰の季節 (文春文庫)

 

 

獏の檻(道尾秀介)を読んだ感想・書評

貘の檻 (新潮文庫)

貘の檻 (新潮文庫)

 向日葵の咲かない夏を引き合いに出した帯がとても目立っていたので購入した。向日葵の咲かない夏は、僕が一番好きな道尾秀介の作品で、続きを読みたくなる気持ち悪さと驚きの結末が最高だった。文庫本全体を見ても僕がオススメしたくなる作品の一つになる。
 あまり関係ない話が続くので、本書に話を戻そう。本書はある悪夢に囚われた人間が、悪夢や自分が目を背けようとしてきた過去との対峙を描いた作品で、確かに向日葵の咲かない夏のような不気味さがあった。それぞれの人間の独白にも味があって、ミステリーが描き出せる人のエグミを見ることができるだろう。
 ただし夢の描写に懐疑的な視線を向ける人がいるのかもしれないと思った。ファンタジー要素の多いものや示唆的な夢は、あまりにもご都合主義的な見方をされることが(最近特に)多い。夢を使った物語の形がとにかく溢れすぎたからだと思う。その点で本書が描く「薬」と「夢」の関係性を読者かどう受け取るのかは大変興味深い。個人的には面白かった。
 最初に向日葵の咲かない夏が帯に引用されていることを述べたが、僕はこれはやめるべきだったのではないかと考えている。あまりにも向日葵の咲かない夏が面白すぎたからだ。あそこまで強烈な個性を備えた作品を引き合いに出されると読者の見方がそっちに寄ってしまう。そのようなフィルターは不要だし、編集者や広報の方には作品のイメージを無駄に作らせない何かを期待したいと思った。もちろん難しいのは重々承知なのだが。

○読後のおすすめ

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 何度も本稿で挙がっている僕の大好きな小説だ。驚くべき展開の数々や読後にも考える要素があるものを求める人には、ぜひ手にしていただきたい。

貘の檻 (新潮文庫)

貘の檻 (新潮文庫)

ゼロ〜何もない自分に小さなイチを足していく〜(堀江貴文)を読んだ感想・書評

 かつては時代の寵児と囃された堀江貴文。彼は過去にある後悔の念を抱いているらしい。それは「自分について開示してこなかったこと」である。なぜ、それに対して後悔するのか。逮捕された事に関する後悔ではないのか……。
 堀江貴文が自己開示に対して後悔した理由は、自分が伝えたかったメッセージが、自己開示なしでは何一つ伝わらないと自覚したからだ。堀江貴文は努力をしたことがない。というよりも努力を努力として自覚してこなかった。ただ目の前にある何事かに没頭してきた結果、いくつもの挑戦を成功に導くことができた。だから結果に至るプロセスである努力については語らず、結果についてのみ語ることで、周囲の人間は彼のことを非常に合理的な人間として扱ったらしい。マスコミの報道によって彼を知る僕たちも同様の考えを持っていたのではないだろうか。
 彼は本書で自分がどのように生きてきたのか、努力してきたのかを語ることで、自己開示を図ろうとしている。それは彼が伝えたいメッセージ「小さな経験を積み重ねて、ゼロからイチにすること。何もないゼロの状態で楽をしようとすることは、ゼロに対して掛け算を試みることだから、まずはイチを加える経験を……」と合致していた。
 本書では堀江貴文が様々な努力をしてきたことが明かされている。その中でも印象的なメッセージが下記である。
 経験とは、経過した時間ではなく、自らが足を踏み出した歩数によってカウントされていく
 確かにそうだ。経過した時間が経験になるのならば、僕たちは特に何かを憂う必要はない。時間の経過が全てを解決してくれるからだ。しかし、時間の経過が解決してくれるものはあっても、全てを解決してくれるという保証は全くない。
 世の中は自分自身への信頼や投資を笑う傾向がある。笑われない人間はどちらかというと周囲から努力することを認められている人ばかりで、その人は既にある基準を超える努力をしていることがほとんどだ。これじゃあ堀江貴文が言うところのゼロからイチを加える経験が抑制されてしまうかもしれない。それでも本当に何か大切なものを追いかけたい人は、その抑制に負けずにイチを加える必要がある。そんな僕たちを勇気づけてくれる堀江貴文の一言で本ブログを締めたい。
失敗なんか怖れる必要はない。僕らにできる失敗なんて、たかがしれている。

○読後のおすすめ

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

 ペイパルマフィアのドンと称されるピーター・ティールの著作。彼は隠された真実に気づき、ゼロにイチを加えることの大切さを説く、世界的な実業家だ。

殺人犯はそこにいる(清水潔)を読んだ感想・書評

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 桶川ストーカー事件を解決に導いたことでも有名な著者の一作である。実はここ最近話題になっていた「文庫X」の内容が本書であったことも先日明かされた。僕はまんまとその企画に乗せられて購入したわけだが、確かに本書はどんな手段を使ってでも、たくさんの人に届けたい内容を備えた本である。
「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と聞くと分からない方でも「足利事件」と聞くと理解を示すことが多いだろう。冤罪事件として世間を大きく賑わせた。一方で冤罪という一事実にばかりフォーカスしていたり、表面的に冤罪について理解している人が多かったりする。何を隠そう僕もその一人だ。その裏にあった事実や問題点については全く知らなかった。そもそも足利事件は、これ一件で完結する事件ではない。
 足利事件で冤罪の可能性を追求し、千葉刑務所にて苦しい日々を耐え抜いていた菅家さんを救い出したメンバーの一人が著者の清水記者である。彼は「日本を動かす」という重要なミッションのもと取材にあたっていたわけだが、冤罪の可能性を説きたかったわけではないという。あくまでも群馬・栃木で発生しているいくつかの事件が連続しているように思えるのに、それぞれの県警が5つの事件を連続して捉えていないことに疑問を抱いていたにすぎなかったようだ。
 それがなぜ足利事件につながるのか。清水記者は5つの事件は連続していると考えたのに、その内の一件でのみ犯人が逮捕されており、解決済とされていることがおかしいと考えたのだ。結果的に警察や科警研の杜撰な操作や事実の捻じ曲げ、隠蔽をたった一人の記者が日本中に発信していくことになる。そこに協力する遺族やかつての目撃者の証言。当たり前なのだが一つ一つがリアルで、頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。どんな小さな声も逃さないで1次情報にぶつかるジャーナリストとしての本当の働きを見た気がする。
 マスコミの働きに疑問を抱く人はたくさんいるだろう。遺族や事件周辺の人に迷惑をかけた挙句、警察が担保していない情報は流さないので、どこもかしこも起こったことをそのまま報じるだけであったりする。そのようなマスコミは清水記者のように情報から背後にある何かを見ようとはしていないのだろうと思う。マスコミとは何ら関係ない仕事をしていてもそうだと思うが、情報をただ流すだけなら人よりもネットの方が優れているのだから、そんなことをする必要なんてないだろう。ピーターティールが著書で述べている「隠れた真実」を探し当てるのにマスコミはとても近い位置にいると思うのだが。
 僕がこの記事を投稿する際に恐れているのは、この記事を読んで「殺人犯はそこにいる」について理解したように勘違いすることである。清水記者が文中でも述べているが、本にして発表されているのは、そこに生きた人間の苦悩や葛藤があり、それを様々な人間が彼のことを信じて述べているからである。このブログだけでは何もわからない。絶対にだ。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

○読後のおすすめ

奇想、天を動かす (光文社文庫)

奇想、天を動かす (光文社文庫)

 たった一つの事件の背後にある何かを解明しようとする推理小説。社会派ミステリーが大好きだ。誰もが何かを考えさせられる一作だろう。