僕が、本書の中で最も印象付けられたことは、「そもそも論で考えることの大切さ」だ。名のある起業家の多くは、この考え方を本当に大切にしている。企業の研修でもこの大切さについて説いていることは、わりと頻繁にあると思う。しかし、それが比にならないくらい、彼らはそもそも論で考えているのだと思う。
僕の周りでは、そもそも論で考えることで、白けた雰囲気になることもある。なぜかというと、そもそも論が自分たちの議論に与えるインパクトが大きいからだ。例えば期日が翌日に迫ったプレゼン資料について、最終的なチェックをしている段階で、こんな声が聞こえたとする。
「そもそも、なんでこんな前提条件があるんだろう?」
確かにそうだ、と思う人もいれば、このタイミングで言うなよと問い詰めたくなる人もいるにちがいない。悲しいことに僕の会社では、後者が少し多いような気がする。でも、そのような反応を示してしまう理由もわからないでもないのだ。なぜなら期日は明日で、僕たちはそのために(色んな意味で)最高の資料を作成してきたのだから。しかし、このような原理原則と思われていることを疑う瞬間にバイアスを壊す、イノベーションを生む瞬間は存在しているのだ。
三木谷は、経済学者である父親の考え方をとても大切にしており、その考え方こそ、世の中の本質を見極めようとする「そもそも論」だったのだ。僕も近頃この考え方をとにかく体に染みつけようとしている。この考え方によって、自分だけの理論が見つけられた瞬間の喜びはひとしおである。
このように三木谷には興味を惹かれる考え方がいくつもある。例えば、未来予測と事業計画の考え方である。以下の文章を引用したい。
「あまり将来のことは考えていないですね。日々、何をして遊ぼうかなと考える。計画性はゼロですね。うちの妻とは、よく喧嘩になります。休みとか家族のプライベートの予定など考えないんです。考えたくないわけではなく、考える能力がないんです。ただ、どうしても計画しなければいけない時には、計画します。楽天の会社を作るときとか、事業計画とか。でも本音を言えば、基本的に予算なんかどうてもいいと思っているんです。僕が言うと怒られますが、でも環境が刻々と変わるのだから、本当の未来はわからない。とくに僕たちがやっているビジネスでは、考える時間は無駄なんです。考えているとスピードダウンする。思いついたらやる。予測がつかないところを、予測しても仕方ないのです。…… <以下、後略>
不確実な未来はいくら考えても不確実なのだから、大枠の方向を決めて後は動き出すしかないのである。僕は、彼のような大きなビジネス基盤を持っているわけではないが、その主張に激しく同意する。しかし、そのような考え方を前面に出して、それを実際に実践するにあたって、恐怖はないのだろうかと思う。そんな思いに対しても彼は一つの解を出している。
インターネット・アントレプレナーと従来の企業のトップの最大の差は何か?
それは「俺たちにはフィア(fear=恐れ)がない」ことである、と。
「俺たちはエイリアンに対する恐れがない。従来の企業のトップは昔のビジネススクールのテキストブックに則って経営しているのだろう。しかし俺たちは、新しいことにチャレンジしているのだから、失敗しても別に仕方ない、と思っている。だから失敗そのものに対して、フィア(fear)がない。もしあったとすれば、それをどうやって取り払うかが重要だ」
捨てることが最も大切なのだ、と堀江貴文が頻繁に言っている。いくつかの観念的事物もそうだし、このような大衆が抱く恐怖を捨てることも大切なのだろう。
こんな風にかなり大規模な考え方を連発している本書だが、一般的なサラリーマンでも、なんだか納得できるし、自分が教育をするうえで少し安心できる言葉があった。それは、『子どもの頃にできないことは、大人になる過程でできるようになる。』というものだ。確かに、僕も社会人になってわかったことがたくさんあったな。いくつかの後悔と、努力しただけの成長。僕は、これからも彼らのような大きな考え方を吸収して、成長し続けたいなと思った。
〇読後のおすすめ
起業家は生きる領域が全く異なる。それを知ったうえで、このような起業家の本を読まないと、本質的な違いに気が付けないのではないかなと僕は思っている。ぜひ、本書を読んで欲しい。そもそも起業家とは何なのかを一緒に考えよう。
かなり勇気を与えてくれる本だ。間違いなく起業家の執筆した本でも、トップクラスにおすすめできる一冊。