首折り男のための協奏曲
伊坂幸太郎の短篇集。一冊にまとめるために書かれた作品ではないために実に多様な色合いを見せる一冊になっている。生粋の伊坂フリークは「これだ!」となるかもしれないし、逆にこれをきっかけに伊坂作品に手を出した人からすれば「これは……?」となるかもしれない。反応は人それぞれかもしれないが、エッジの利いた物語ばかりで、僕は気が付けば次のページを捲っていた。
なぜここまで多様な短篇作品が集まったのかと疑問を抱いたのだが、「ホラー」「恋愛」と多様なテーマ性の雑誌に投稿した作品を集めたから、出来上がった一冊らしい。伊坂幸太郎の短篇集といえば、あるテーマ性のもとに出来上がっているものが多い。もしかしたらこのギャップは読み手に、(もしかしたら伊坂幸太郎が好きな読者に対しても)戸惑いを生じさせるかもしれないが、個人的にはテンポよく様々な作品を読むことができて楽しかった。
さっきから遠回しに伊坂幸太郎らしさを欠いていると主張しているような文章を打っているような気もするが、彼らしいアイデアやトリックは健在だ。例えば、『僕の船』では、確実性はない推測だからこそ、時間をかけた夫婦に訪れるからこそ、ほろりと泣かせる要素を伊坂印のアイデアが演出している。寝たきりの夫はその答えを知らない。依頼者の絵美がどう考えるかは明記されていないが、その涙の軌道が答えを知らせているようにも思える。
『人間らしく』『相談役の話』はかなりホラー要素を備えた作品だ。前者ではいじめ問題とクワガタが持つ攻撃性を交えて話を展開させている。読んでいる最中には謎を呼んでいた部分が、読後には「なるほど」と納得させられる。一方で、生き物がもつ攻撃性への不安は消えない。そこが妙な冷たさを感じさせるのだが、「神様はたまに見ている」という考え方が「まあ、なんか、がんばるか」という思いを抱かせるし、個人的には頑張っているのに報われないと思ってしまう自分を納得させる言葉になった。後者は結局何が何だかといった感じなのだが、それを含めてヒヤリとさせる感覚を読み手に抱かせる。心霊写真という日常的に恐怖の対象として語られてきたものを使っているのも恐怖の演出に一役買っているのだろう。
『月曜日から逃げろ』は二度読みたくなるようなトリックを含んだ作品で、最も伊坂幸太郎らしさが表れている作品だろう。読んでいて見た覚えのない単語が出てきたときに「あれ?」となる自分の感覚がおかしいのかと自分を疑ったのだが、途中で「あーなるほど」と納得させられた。
『合コンの話』では何度も笑わせられた。おしぼりの使い方やドリンクの飲み方で隠れた意思疎通を図るのは、何か一つぐらい使いたくなる。それぞれの思惑とか考え方が、実験的な文章に表現されていて、それも面白かった。「こんな文章あり?」と思う瞬間もあったが、それがしっかりと面白さにつながっているのだから良いだろう。
〇読後のおすすめ
伊坂幸太郎の短篇集、かつ本書のように多様な設定やトリックが楽しめるものだ。一作一作のクオリティが高く、何度読んでも飽きがこないなあと実感させられている。
ジャイロスコープをすでに読了している読者の方に向けて書いた記事である。