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向日葵の咲かない夏(道尾秀介)を読みました[レビュー]

 道尾秀介の「向日葵の咲かない夏」を読了したので、その感想を投稿したいと思います。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 

 ※ネタバレを含む可能性があります。

 

 道尾秀介の作品を読むのは「光 」以来、二作品目でした。

 偶然にも主人公はどちらも小学生ですね。道尾秀介は小学校の頃にどんなことを考えていたのだろうか、と不安に思いました。不安に思ったのは、本書がとても怪奇で、不気味な怖さを備えているからです。それでも、気がつけばページをめくっているのは、それ以上に本書が物語としての面白さを備えていたからだと思っています。

 

 そう。本書のテーマも実はそのまま「物語」だったりします(そういえば光にもそんな描写が多々ありました)。

 それぞれの人間が生きていくうえで作り上げている物語。それは人が意識せずとも、知らず知らずのうちに構築してしまっているものでもあります。そこには真実も嘘も入り混じっていて、もちろん主観で形成されている。

 本書はそれをテーマにしているのと同時にその面白みを武器にもしていると思いました。S君が語る真実が実はミスリードであったり、多くの登場人物は自己保身のため、自分を納得させるために様々な嘘をつきます。結果的にS君の語りにミスリードが多いのは道尾秀介のトリックであって、ミチオの脳内で全て補完されていることなので当然です。もちろんトコ婆さんの話もそうなります。

 心理学でも様々な理論で自分を保つための心理が働くことが確認されています。僕はこれを否定することはしないし、これらは人間が上手く生きていくために必要なことだとさえ思います。そうでなければ、世界はあまりにもつまらなすぎて、絶望的なものに覆われている感覚が抜け切れないと思うからです。しかし、ミチオのようにそれを信じ切って他人にまで押し付けてしまう人間には賛同できません。

 彼はかなり偏った考えを持っていた。最初の文章を読めば死に対していくらか礼賛しているような節も見て取れるし、自分の物語を守るためには人を殺すことも厭わない。こんな小学生怖いよ、って僕は思いました(S君に対してもいくらか)。彼はこの夏に起きた事件を(彼なりに)上手く収集させるためだけに泰造じいさんを殺します。彼はその後、庭でみつけたカマドウマをおじいさんと見立てて、ミカと同じように飼いならそうとします。このカマドウマというチョイスがかなり面白いと思ったのですが、それは最後に書きます(笑)

 

 S君の自殺に関しては、ミチオのお願いが全てで行われたとは言い難いでしょう。彼はいくらか自殺することを考えていたのだろうし、泰造じいさんに対するプレゼントとして自分の遺体を提供しようと本当に考えていたのかもしれない。もしくはミチオのお願いを機に考えたか。どちらにせよ、この辺りは一部ぼやかされていますし、それこそ読者の考える物語次第なのでしょう。

 

 最後にラストシーンとカマドウマについて。

 ラストシーンでは表面的に読むとなんだか怖い感じで、さっと流れてしまいそうな箇所なんですが、じっくり読むと面白い部分が多々あります。

 ミチオは部屋に花火で火を放ちます。燃え盛る炎から家族を救うために父がとった行動が記されていますが、最後の描写である影は一つなので、生き残っているのはミチオのみです。なおかつ妄想的な物語を創りあげるということをミチオはやめていないわけです。自分が殺してしまった人たち、もしくは間接的に殺したかもしれない人たちの魂を無視に宿すことをです。

 また、最後に母が三年ぶりにミチオの名を読んで両親がミチオに手を差し出す場面。まるで死に絶えそうなミチオを引きずり出すために両親が久しぶりに結託したかのような描写ですが、たぶんこれもミチオの考えた物語で真実は全く違うのでしょう。上述したようにミチオは死を尊いもののように扱っています。くだらない世界で生きることよりもいくらか良いものだと考えている時があるのです。その時がその火事を起こした時にも発生していて、ミチオは実は火事によって死にそうになっている両親を見て、ある種の羨ましさを感じていて、現世に残る自分を悲しく見ているのではないかと思いました。かなりナルシストな考えですが、これが彼なりのその夏に起こった一連の出来事を終わらせる方法だったのではないでしょうか。

 最後に母が名前を呼ぶのは必死に助けを求めたからなのでしょう。そもそも父が二階からミチオと母を投げて助けたという妄想が本当ならもっと大きな怪我につながっていそうな気がします。

 

 カマドウマについては泰造じいさんがS君の家で見た向日葵と関連があるのかなと思いました。

 S君の庭で咲いていなかった向日葵は石鹸を飲み込んでしまい、一連の事件を上手く間延びさせる役割を果たしていました。そのように向日葵が咲かなかった原因はアブラムシが、その向日葵に蔓延っていくらか向日葵を痛めてしまったからだと記述されていました。

 ミチオは偶然にもカマドウマを泰造じいさんの転生した姿と考え、好物を図鑑で調べます。それが、なんとアブラムシ。体裁を取り繕い、自分の罪をいくつかごまかそうとしていた泰造じいさんにとっての一連の出来事を冗長させた、咲かない向日葵の元をつくったアブラムシを食べるカマドウマに設定されたのです。

 もし、アブラムシがいなかったら、こんなに出来事は間延びしなかったとか、泰造じいさんの命までが奪われることまではなかったとか、いろんな展開があったはずです。もしかしたら、それが泰造じいさんにとっての希望のようなもので、S君の考えた悪い王様の話との関連もあるんじゃないでしょうか。この辺りは完全に想像ですし、それぞれで考えてみると面白いところだと思います。

 

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

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