スプートニクの恋人(村上春樹)を読んだ感想・書評
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/04/13
- メディア: 文庫
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喪失という言葉からは、対象が世界から損なわれることを想起させられる。では、この世界とは何だろうか。全体的に捉えるのであれば、現在発見されている惑星を含めた宇宙だろうか。いや、それだと範囲が広すぎる。一般的には生活規模である地球を指すのかもしれない。そして、損なうとはどのようなことを指すのか。人であれば『死』を連想させるだろうし、物であれば破壊されることや見失って戻ってこないことを思い浮かべる。
この「見失って戻ってこない」を人に当てはめることはできないだろうか。無論できる。あまり思い出したくない光景だが、3・11で津波に流され、遺体が見つからなかった場合は、死を確定する条件である遺体を見つからない場合もあった。明確に死を決定づけられたわけではないのに、環境から死を想定せざるをえなかった。
記憶障害について考えてみる。目の前にいる人間は見た目上なんら変化がないかもしれない。しかし、記憶を失うことによって、周囲の人が知っているその人は損なわれてしまったかもしれない。
これらは一つの喪失の形だと思う。つまり、自分の世界から自分の知っているその人がいなくなってしまうことを指す。そう考えるとギリシャの島で姿をくらましたすみれのことが少し理解できる。彼女は恋の発現によって自己確立を促していたパーソナリティを欠くことになってしまった。その欠落は今まで自分を守っていた盾を失うことにも直結したのだと思う。
本書でその詳しい要因は語られていない。しかし、一つだけ明らかな事実がある。それは、すみれが主人公のもとに戻ってきたという事実だ。これは非常に大切な事実だ。パーソナリティを大切にする思考が養われつつあるからといって、世界が全ての人間を守ってくれるわけではない。そもそも指し示す方向が誤っている可能性だってあるのだ。そんなときに、その人を救うのは主人公のようなひたむきな心だと思う。
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