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Aではない君と(薬丸岳)を読んだ感想・書評

※ネタバレ注意

 読んでいて息が詰まる場面が何度もあった。少年がその場で感じている苦しみや底しれぬ怒りの感情が私に憑依しているかのようで、自分でもコントロールできなった。あの感覚は本書を読むことでしか体験できないものだったと思う。
 薬丸岳の小説を読むのは初めてだった。彼の情報を集めているときに知ったのだが、彼は少年犯罪に関する小説を書き続けているらしい。ひとつのテーマに拘って書き続ける小説家は何人もいる。が、少年犯罪という個人によって考え方が異なるテーマを、事件単位で事件性や動機の意味合いも全く異なる領域を頑なに攻め続けるのは気が滅入る作業だろうと推察する。きっとそれでもなお訴えかけたい思いがあるのだろう。
 少年たちは学校や彼らのもつコミュニティでしか発揮されない特別な秩序の中で生きている。秩序は決してひとつにまとめられず、いくつもの小さな秩序をそれぞれ無意識に反映させている。彼らのそのような秩序は、普遍的な秩序とは全く別物で、社会的な物差しで彼らを推し量ろうとしても理解が及ばないだろう。だから少年犯罪やいじめに対して言及する人は、聞こえの良い、だけど的外れな相対的意見に終始してしまうのだと思う。本当にいじめや少年の生態について理解したいのであれば、とにかく事例を知り、彼らを深く知ることが必要である。ほとんどの人は横展開も縦への追求も及ばない。
 こんなにエラそうなことを述べているが、私もこれらに対する認識は甘いと思う。強いていうならば、若さと何事も客観的に見ようとするスタンスだけが理解への後押しになっている。しかし、それでも浅い理解に終始している感覚は拭い去れない。だから私は小説を読むし、そこに生きた世界があると喜びを覚えるのだ。
 本書は連載されていたものに、第三章を追記して出版されている。この第三章が特に素晴らしい。誰一人答えを出せていないのに、それぞれが必死にもがきながら手探りで行動している。一人の人間の葛藤が、身近な別の人間の葛藤を呼び、その葛藤が読者に自分の考えを持たせる猶予を与える。本書を読み終える頃には、登場人物と同様に思考する自分が存在しているはずだ。少なくとも私はそのような思考をし続けている。そして思ったことがある。
 とある有名人にいじめられていた過去があるとネットの記事で読んだ。いくつか関連記事を漁っていると、その有名人のいじめの原因がいくつも推測されていることがわかった。一方的な勘違いでいじめられていたというものや、仕返しでいじめの対象になったというものだ。前者の記事を見た人はその有名人に対して同情的で、後者の記事を見た人は冷めた視線を投げている、もしくはそれでもその人を応援しているという後ろめたさを感じさせる意見を述べていた。どっちが事実かなんてわからない。ただ、有名人に対する群衆の期待を私は恐ろしく思った。有名人は、圧倒的な強さだけでなく、背後に弱い過去を持つことが求められているのだと推察できたからだ。自分たちの弱さを打ち消すように脚光を浴びる存在。自己投影の対象としての存在——。現代的な考え方が如実に出ているのではないかと痛切させられた。
 本書の中核にあるいじめ一つだけを切り取ってもいくつもの課題が存在しているのだ。その中で起きた事件に対してどのような意見を持つかは人によって大きく異なるのも頷ける。だからこそ、自分の周りで起こったできごとには、自分の意見をしっかりと主張できるようにしたい。

 

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