就職活動をすることに悩み、いざ行動してみても何の仕事をすればいいのかわからない、挙句の果てに自分が何をしているのか理解できなくなってくる。そんな時期も正直あったと思う。それでも内定を獲得できたのは、就職活動をすることが、大きな社会のレールになっているからで、そこが選択のデフォルト値だったからだろう。人はデフォルト値から外れることに勇気を持つ必要がある。僕は悩みながら行動しているようで、受け身でい続けたのかもしれない。
さて、そんな風にして僕なりに必死に就職活動を戦い抜いた、あの夏から既に三年が経っている。たまに地元に帰ると、懐かしい風景も少しずつ変化が見えるようになってきた。そして、僕の周りでも色んな変化が起こってきている。そう転職をする人がちらほら出てきたのだ。
転職には様々な理由がある。自分のしたいことを実現するための転職やお金をもっと稼ぐための転職、もちろん逃げの転職も存在する。転職自体のハードルは以前よりも下がっているという。生涯雇用神話の崩壊だけでなく、あえて流動的に人材登用することで意欲的な人間だけを採用するような人材戦略が増えてきたからだろう。
しかし、転職する人がみんな幸せになっているわけではない。
本書は、自分の目標と企業の成長性を掛け合わせる戦略的な転職を説いた本である。そうやって自分の価値を高めていくことで、自立した存在になることを目指す。とりあえず転職エージェントに相談して……とりあえず給料がキープできれば……といった考え方は捨てることになる。僕個人が思うに、とりあえずエージェントに相談することから始まっている転職市場を俯瞰する意味でも、このような本の果たす役割は大きいだろう。
転職の決断をすることは、きっと想像以上に怖い。なぜなら転職は、社会人になってから(もしかしたら初めての)大きな意思決定だからだ。しかも自分が今持っているものを一度に捨てることになるかもしれない。デフォルト値を高く見積もってしまう人間の思考からすると、それは大きな心の負担になる。でも、その壁を乗り越えて前進することができれば、それは大きなきっかけになる。
正直、転職の思考について、この記事で書くつもりはない。本書がきれいにまとまっているうえに物語性を持っていて読みやすい構成になっているので、空いた時間にそちらを読んでいただきたい。
ただ一つだけ気に入った箇所があったので、それについて触れたい。それは「自分の好きなことを仕事にできるか」について書かれている箇所だった。僕は自分が仕事にしたいと思えるくらい好きなことをいくつか持っている。でも、多くの人は、自分の好きなことがそこまで情熱を捧げられるようなものじゃないことに気づく。趣味がいい程度なのかもしれない、そんな風に思うだろう。でも、安心してほしい。ほとんどの人は、そうなのだという。
一方で、それを僕は寂しく思った。それくらいの熱量を捧げられるものがなければ、僕はすごく虚しい気持ちになるし、心が軽すぎて病んでしまうかもしれない。空虚さは、裸の自分を映し出してしまう。そして、未来に靄がかかったような気持になってしまう。この先に何があるのかという自問自答の声が聞こえてくるようだ。そんな人は自分がとことん好きになれることを最初に探してみてもいいかもしれない。もしくは転職することで、そのような仕事に当たることができるかもしれない。興味きっかけは、やってみることから生まれる可能性もある。いかなる可能性も考えながら、でも冷静に市場を見渡してみる。そんな賢明な思考を何よりも求めている本なのかもしれない。