これからの時代、より多くの物がコモディティ化してくる。そうなると人の購買意欲を支えるのは、その背景にあるストーリーや人との繋がりだ。編集者は、そもそも本の企画を通してストーリーを作り上げることが仕事だ。これからの世界で台頭するための力を養うことができるという。
世の中の人の喜怒哀楽に対する嗅覚がなければ売れる本なんて作れるわけがない。だから編集者は嗅覚を鍛え続ける。そして、特定の誰かの感情に深く刺さるようなコンテンツを作りあげる。結果的にそれはマスに対しても大きな反響を与えられるという。確かに抽象的な何かをイメージしても、就活のGDのようなエンドを迎えそう。それよりも特定の誰かを深く知ってその人に届くコンテンツにすべきなのだろう。
最後の部分に関連するのだが、人の行動なんて、本当にちょっとした欲求の連続で成り立っているのだなと最近深く感じていた。昔は、もっと合理的で賢い選択の上に成り立っている世界をイメージしていたと思う。でも、そうじゃなかった。本書にもこんな一節がある。
民衆は「正しい情報」よりも「楽しい情報」を求めている。これは江戸の瓦版からのころからの真理だ。おもしろおかしく、刺激的な言葉を吐く講談師や噺家は、民衆から喝采を浴びる。「正しい情報」をありのままに伝えたところで、人々は幸せにはならない。そして「正義」ほど曖昧で、一方的で、暴走しやすいものはない。
僕はいつもユーモアを交えて話すことを意識している。しかし、たまに、自分の伝えたい世界の真実が優先してしまって、相手のニーズに沿っていないようなときもあると自覚している。これを見て改めて実感した。人の喜怒哀楽を読み取り、適切な笑いをもって相手を説得する技術の大切さについて。
少し話を戻すと、やはり人は小さな欲求の連続の中で生きていて、今はスマホが自分の欲求を満たすアプリで溢れているので、親指で動かせる世界から中々離れることができない。つまり、スマホは飼い主の欲しい情報だけを与えている。箕輪さんは、バカはますますバカになる、と本書で一刀両断している。
それでも、箕輪さんはそんな人たちに情報と行動する勇気を与えたいのだと思う。だから著者と共に血を流してでも本を作り上げる覚悟を持っている。当たり前だが、目の前にいる上司に向かって仕事しているのではない。その先にいる読者のために本を作っている。編集者は、著者や上司ばかり見ていてはダメで、彼らとは共犯者になって最高の本を作り上げる必要があるのだ。
そのためには当然、社会や社内の通年(上司の意向)にばかり振り回されていてはいけない。間違っていると思うことに対しては、間違っていると言うことが大切だ。そのような行動を避けていると本当に進むべき道には戻れなくなる。きっと脳の奥底にある無意識の部分まで、そのような回避行動が習慣として染みついてしまうのだと僕は思っている。
このように見るべき対象や行動の意識について、当たり前だけど皆ができていないことを知った。だが、これだけでは今後も編集者として成功できるとは限らない。ただ本を作るだけでなく、企画することに移行している編集者として職務を全うするには、企画する力を養う必要がある。
まずは何かひとつのことで突き抜けることだ。軸足のないキックボクサーは、強い蹴りを繰り出せない。そのために誰よりもそれについて考え行動すること。そして、依頼・提案されたことは必ず引き受けて、誰かにお願いしたいというときに真っ先に頭に浮かぶ人になること。企画に呼ばれなければ編集者としての仕事は真っ当できなくなる。
以前に読んだ本で試行回数の大切さが説かれていた。自分が思い描く完璧な状態になってから行動する人は結果的に成功率が低いというのだ。そして、誰かの印象に残りにくいのだと言う。自分が描く完璧な状態が、周りの思い描く求めるものと一致するとは、そもそも限らない。しかも、自分がそのことを隠していると、それ自体を認知してもらえない。その人は、その人の人脈の中からあなたを選ぶ、もしくは思い出すという行動をとった後、依頼するわけで、自分からアピールしないとそもそも対象にすらなれないかもしれないのだ。そうであれば、まだ不完全かもしれないけれどアピールして挑戦する。そこで上手くいきそうであれば必死で努力する。そこで成功すれば一つの実績ができて次につながるのだ。
そして、何かに挑戦するのであれば、そのプロセスを発信する方がよいだろう。全く同じことを成し遂げたとしても、そこにプロセスができるだけで、ストーリー性が生まれて人の目を惹きつけることができる。これこそ企画する者に求められる資質だろう。
だから、どんどんアピールして、どんどん行動して、どんどん発信すべきだ。そうやって箕輪さんも大物との仕事を獲得して、自分の名前を世間に売っていった。
大物の周りでよくある、あの人は○○で忙しいから仕事を受けないよ、という言葉を信じてはいけない。相手も人間なので感情があるはずだ。相手に憑依するくらい相手のことを想像してどうやったら提案を受け入れてくれるのかを考え抜けばいい。そして、それを誠意をもって提案するのだ。大抵のうまくいかないことは相手の気持ちを考えていないことに起因する。学生時代に徹底的に周囲の人間の行動分析をしていたという箕輪さんらしい突破方法だと思った。
本書は、編集者に憧れる人にはもちろん。それ以外の人にも通じる素晴らしい書籍だと思う。なんなら仕事に限定されない、自分らしく生きるための力になる本ではないだろうか。意外にさらっと読めるので、ぜひ購入なさることをおすすめする。
〇読後のおすすめ
途中の試行回数の記述は本書で学んだことを書いている。