家入 一真 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2017-08-26
本書で提唱されている「なめらかなお金」や「小さな経済圏」とは何なのか。それは本書を読んでいただければわかることだけど、僕はこれを「人の想いが乗っかったお金」や「想いを乗せた共同体」と言い換えられると思った。
これまでの日本は、世界でもトップクラスの経済成長性の中で、降ってくる仕事を捌いていれば必然的に会社は成長することができたし、そこに乗っかる人の生活にも潤いが与えられていた。年功序列制度は、確実な成長が約束されている企業からすると、採用計画も立てやすかったし、昇給を意識する社員からしても理解しやすい制度だったに違いない。僕たちは「安定的かつ充足した人生計画」を大きな組織に乗せていたのだと思う。
しかし、いくつかの大恐慌やインターネットの登場によって市場は大きく狂い始める。世界的なアウトソーシングの活性化によって日本国内の仕事が減ったり、技術のコモディティー化も促進されたので主要製品の市場価格が急降下したりもした。企業が想像していた成長計画よりも、早く不確実に世界は変化していったので、企業の動向も不確かになった。
この状況下で多くの人がとった行動は、意外なことに大きな組織に乗っかることを、より慎重に進めることだった。「ここなら絶対に潰れない」という企業を見つけて、得たお金を自分の懐に残すことで、いざというときに備えることができると考えたのだ。しかし、インターネットの躍進やアジア企業の躍進に乗り切れなかった日本経済は停滞ムードの中に落ち込んでしまう。給与自体は向上したとしても、物価が上昇し、人々も閉塞的な空気から抜け出すことができていない。そこで様々な働き方改革が生み出され、その一環として副業が斡旋されるようになった。
僕が考えるに副業には二つのケースが存在する。①高スキル人材が、自分のスキルを活かして更に稼ぐケース。②給与の低い人材が、お金を稼ぐために副業で稼ごうとするタイプ。この二つだ。前者はNewspicksなどでも取り上げられる存在で、市場価値を遺憾なく発揮できる人材だと思う。なによりも楽しんで仕事(副業)できることが特徴だと思っている。後者は、生きることが目的になる。不安定な企業に就職した人は、満足のいく給料を得ることができないかもしれない。今は、メルカリのように自分でお金を得る手段が用意されているので、それを利用してお金を稼ごうと試みるのだ。このような人たちで懸念されるのは、実際にお金が稼げるかわからない点と楽しさが薄いことだ、と僕は考えている。でも、このような人たちにも生きていくうえで大切にしていることや大切にしている想いがあるはずで、その想いを大切にするためのプラットフォームを家入一真は作りたいのだと思った。
このプラットフォームがあれば、お金を求めるときに必ずしも金融機関を頼らなくて済むようになる。自分の想いに同調してくれる人と共同体を作り出すことができればよいのだ。それは小さな経済圏かもしれない。でも、求めているものが小さなものであれば、それは小さくても全く問題にならない。むしろ小さいからこそ、お互いに助けあって絆を深めた方が大切になるかもしれない。それはいつしか、僕たちが忘れた本当の共助精神かもしれない。この人の言っていることに共感できるから、なんだかこの人が好きだから、そんな理由で応援することができるようになる。
ただし、このような評価経済的な仕組みには落とし穴があることも家入一真は述べている。それは評価されるために、同調圧力で良い人を演じるような人が出てくる可能性や、蹴落とされた人が評価を下げて立ち直れなくなるかもしれない可能性だ。確かにこのような懸念はあるだろう。
まだまだSNSで問題視されていたりするクラウドファンディングだが、人の想いを乗せたお金のやり取りが増えること自体は素晴らしいことだと僕は思っている。家入一真が思い描く素敵な社会の到来を待ちわびたいし、そのためにいくつもの障壁を乗り越えてほしいと思っている。そして、僕自身、この世界の中でなにができるのかワクワクしている。
家入 一真 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2017-08-26