彼は導入部分で、若者に対する独自の意見を述べている。「人類が進化し続けていると考えれば、年下の世代は常に優れたものを持ち続けていると考えることができる。だから、年下なんて、とあしらわないで彼らの行動原理について真剣に考えてみる。そうすると現代における大切な原理が見つかる」。例えば本書では、ゆとり世代はやりたいことが不明瞭だと批判するおじさんについて言及している。西野からすると、若者のこのような特性は、終身雇用制度の破綻が見えつつあり副業・兼業・フリーランスが当たり前に移行しようとしている現代の中で、いろんなことに興味を持ち、様々な職業に就こうとしていることの現れなのだという。かなり面白い見方だなと思った。これからは、一つの職業が死ぬまで残っていると保証されない時代だ。そのスキルを横展開したり、他にも興味を持って知識化したりすることが必要なのだと再確認し、若者の特性を知ることで、現代の傾向を知ることができるのだと発見することができた。
彼はとても「数値化」にこだわる人間だ。メールマガジンやSNSのフォロワー、クラウドファンディングの支援者数など、彼の周りには数値化できるものがたくさんある。このような数値がスマホ一台で簡単に作り出せる時代だ。そして、この数値は注目値や信頼値として置き換えることが可能である。彼のことを何らかの要因で信頼していたり、興味を持っていたりするからこそ、フォローや投資を行うのである。お金とは信頼を可視化したものにすぎない。ならば、この信頼を集めれば、お金も自然と集まるのではないか。この考えが彼の根底に存在するようだ。
とても面白い考え方だなと思った。よくSNSを使った広告やインフルエンサー事業の展望について語られている記事があるが、それらを上手く使ってビジネスに繋げるのだという当然の考えから抜け出す主張を持つものは数少なかった。本書は実態を伴っている分、この考え方がとてもわかりやすく入ってきた。彼は、自分の手元にある、これらの数値をどのように使うかを常に考えている。もちろんフォロワーを金蔓として認識しているわけでもない。共犯者と考えている。一緒に何を作り上げていく仲間と言えるかもしれない。話題になった絵本の作り方もそうだった。既存の絵本作成プロセスをほとんど捨てて、クラウドファンディングで共犯者を募った。そこに投資する人は彼を信頼する人でありながら、共に絵本を作る共犯者であり、完成した絵本を受け取ることができる約束されたお客さんでもあるのだ。これが彼の手掛ける絵本が大きな成功を達成した理由の一つになる。
他にも興味深かったのは、彼がネット上に絵本を無料公開したことだ。これはSNSで批判殺到した。無料で公開したら絵本作家が食い扶ちに困るという主張がほとんどだ。しかし、彼は人がどのような動機でどんな風に絵本を買うのか考えた結果、これは何も問題にならないと主張している。
絵本を買うのは母親で、母親は子どもに良い絵本を与えたいと思っている。そのために絵本の確認作業を怠らないし、良い絵本だと思えば、それをすぐに購入する。そのために西野はネットで絵本を無料公開したのだ。しかもそこに重要な制限をつけた。スマホ用に縦スクロールでページを捲るUI設計にしたのだ。これによって絵本のもつ「読み聞かせ」という機能を達成しづらい状態にさせた。しかし、内容については理解できる。なので、母親はここで内容を確認して、子どもに読み聞かせたいと思った場合に、物質の絵本を買ったのだ。いわゆるフリーミアム戦略で、顧客を的確に捉えた素晴らしい戦略だと思った。これによって売上が向上し、作家にも適切な金銭を支払うことができたという。マネタイズのタイミングを考えた末の戦略なのだということを理解しなければならない。
この戦略には彼が人の購買理由にある傾向を見出していることが影響している。それは、「人は、確認作業でしか動機を持たない」というものだ。私は、これを追体験型の動機と(勝手に)呼んでいた。インスタや旅行雑誌を見て休日の予定を決める人がわかりやすい。彼らは、データ上ですでに素晴らしいと評価を受けたものに対して興味を持ち、実際にそれを素晴らしいと確認することに行動動機がある。さらに、そこで見たものを人に伝えたい・誇示したいと考えた場合、それを人に伝えて、それを見た人が……というように広がっていく。西野は、この特性を理解しているからこそ制約をつけたり一部公開したりして、顧客に興味があるかを問いかける時間を作っているのだ。
このような売り方ができていない業界はたくさんありそうだ。西野は、本屋が人と本との出会いをもっとデザインする必要があると主張していた。過去で話題になった文庫本Xのように本と人のきかっけを生み出すことは難しくないはずだ。経営者は、自分たちのサービスが顧客に届くまでのフローを見て、顧客との正しいコミュニケーションが築けているのか確認しなければならない。
本書を読んでいると多くの人は、まだまだ考え足りないのだと思い知らされた。西野はこんなことを言っている。「行動できないのは勇気がないからではなく情報が欠けているから。ポジティブシンキングではなくロジカルシンキングで人は動く。情報が足りないのはただの努力不足なのだ」と。この言葉を肝に銘じて、徹底的に考え抜いて行動したいと思う。