臨場(横山秀夫)を読んだ感想・書評
終身検視官の倉石義男の周りで生きる男を主人公に立てた全八編が収められている。さすがに実際の警察官でこのような探偵仕立ての事件解決が頻繁に行われているとは思わない。それでも現実離れした倉石のかっこよさに惚れ惚れしてしまった。
そのなかでも「餞」が僕は好きだ。絶対に交わることのなかった息子と母の命の線。それを変えようと一年に一度だけ出されていた母の葉書。倉石が導き出した真相と母の想いに思わず涙腺が緩んでしまった。警察官の働きを評価するとき、思わず粗さがしをしてしまう。しかし、当たり前のことを改めて評価してみれば、警察官の働きは地域にとって絶対に外せない。自分が過去に捨てた子どもが、人のために働き続けてくれたことを嬉しく思ったのだろう。僕もそんな働きがしたいなと心から思う。
そして決して外せないのが「十七年蝉」だろう。一人の女性への愛が、彼女を傷つけた男たちへの憎悪として生き続けている警察官の話。横山秀夫の重厚な文体が話のテーマに合っていて心を強く打たれた。ステレオタイプ的な見方で限られたカテゴリの人間に復讐したくなる彼らの気持ちはわかる。が、彼らは事件の犯人ではない。復讐の対象にするのは卑怯だ、とも思う。自分ならどうするのだろうか。どうすべきなのだろうか。当事者として、または彼らの周りに生きる人間として、考えてみなければと思う。
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