ロジカル・プレゼンテーション(高田貴久)を読んだ感想・書評
(中略)……提案とはそもそも、こちらが頑張って通さなければ、通らないのがふつうなのだ。決して提案が通ることが当たり前だと考えてはいけない。なぜなら、通るのが当たり前だと考えてしまうと、提案が通らない場合にそれを「相手のせい」や」「環境のせい」にしてしまうからだ。
最もな意見である。確かに環境が悪いことが原因で提案が通らない・否定されることはあるだろう。僕もそのような経験がある。なんだかよくわからない相手側の理屈一つで正しい意見が捻じ曲げられていくような経験だ。まるで納得がいかないし、相手を恨んで悪口のひとつだって言いたくなるかもしれない。しかし、その時点で僕のPDCAは途絶えてしまっていたのだ。これでは劣悪な環境で自分をシンデレラのように扱う痛い男から何も変わることができない。本書にも記述があるが、提案は自分次第で、相手の目線や要望、スタイルによって見方が大きく変わることも考慮に入れなければならない。それを考えることが自分の成長にも繋がるのだ。
本書によると提案した際の相手の反応は二種類しかないらしい。①本当にそうなの? ②それだけなの? 以上の二種類だ。本書では、これを①縦の論理と②横の論理の不足が原因の反応と捉えて改善策を考えている。この考え方はとてもいいかもしれない。相手のコメントを聴きつつ不足していたポイントを考慮することができるようになるからだ。それでは以降でそれぞれについてもう少し詳しく紹介したい。
①本当にそうなの? これは縦の論理関係=因果関係が弱い説明で起こってしまう。この縦の論理関係が繋がらない四つ理由として以下のものが挙げられている。
1.前提条件の違い。相手の目線に立つことで相手がどんな役職で要望は何なのかを考慮する必要がある。人が持っているその提案に対する情報量が理解の度合いに影響を与えている。縦の論理は提案背景が弱くなるので、この前提条件の理解の違いは意識しておく必要があるだろう。
2.異質なものの同質化。これは全く違う話を同一のテーマとして扱っている可能性がある。例えば大きな一つの業界で区切っているが実際はもっと区分できるものであるとか。縦に並べたもののサイズ感に差異がないか確認することも必要かもしれない。
3.偶然の必然化。偶然の出来事をさも当たり前に起こる出来事として捉えているようなことだ。これを防ぐためには一度否定的な目線で自分の提案内容を精査する必要があるかもしれない。
4.詳細を話すことができない。縦の論理を中心に提案していると、詳細を削って話すことが多くなるのだろう。だからといって細部を蔑ろにしていいわけではない。相手にとってもそれが大事な場合がある。だからそれを記憶し、いつでも相手に説明できる状態にあることはとても大事なことなのだ。
この四つの原因をカバーすることが伝わりやすい縦の論理関係を伴うプレゼンには必要になるのだ。
②それだけなの? これは横の論理関係=全体の捉え方がおかしかったり、漏れ・ダブリがあったりすることが原因になりやすい。そこで予想される原因は二つある。
1.話者と聞き手で視点が異なっている。これは縦の論理関係が繋がらない理由のひとつと似た原因である。例えば「経営者」と「従業員」では「給与」に対する考え方が違うかもしれない。それぞれの立場でものを考えないといけない。
2.切り口(想定場面)が異なっている。何かの施策に対する話をしていたとして、それの適応場面を話者と聞き手で異なって想定しているかもしれない。提案の目的や全体的な視点について想定しているものを共有することが大切になる。
このように話のレベル感を合わせて初めて横の論理を考えるフェーズに入る。そのときになってフレームワーク等を使ってMECEで考えられているかを確認するのだ。多くのフレームワークはいきなりそれを使うと何かを解決できる便利グッズのような扱いを受けているが、これでは相手との意識に差が生じる可能性があることを学ぶことができる。またP91のMECEマトリクスによるダブリチェックもおもしろそうだ。
次に提案内容に大きく関与する仮説検証について考える。仮説では、相手の疑問を知り、次にその質問に答える(示唆を与える)ことが必要である。僕はこの「相手の疑問を知り」が非常に大切だと感じた。総じて質問を投げかけられた人は、相手の言葉を受けて思ったことをとりあえず答えることが多いからだ。それで会話がチグハグになる光景を僕は何度も見てきた。そして仮説検証のための5つのステップに移ると本書では提唱されている。「仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法」よりもステップが多いのは、相手の目的や論点を確認する行為をステップに入れているからだ。それが、①目的の理解、②論点の把握、③仮説の構築、④検証の実施、⑤示唆の抽出、以上の五つである。以下で詳しく考える。
①目的を理解する。ここには二つの注意点が存在する。1.議論のスタンスを理解する。意思判断を求めている場合と単に話を聞いて欲しいだけの二通りのスタンスが存在しているので、これを把握する。意思判断を求めるような押し切り型の提案(コミュニケーション)では、具体的な話で締めくくる必要がある。2.相手の要望を理解する。これは相手の話を聞き、背景を理解するというとてもアナログな行為である。もし時間や機会がある場合は、提案までに相手がどんなことを考えているのか知る機会を持つべきだろう。
②論点について、本書にこのような記述がある。
「論点」とはつまり、「相手が意思判断を行う際に検討する項目のなかで、まだ確固たる答えを持っていないがために、検討を行えば意思判断の結果にちがいを生じる可能性のある項目」であり、要約すると「相手の意思判断に影響をおよぼす判断項目」なのである。
これを見れば論点について考える際に相手の要望が必要であることがわかる。また、本書ではP129に論点を外さないため(話し合いがうまくいっていないとき)のチェックリストがあるので、それを見てみるのもいいかもしれないと思った。また論点はいくつか存在する可能性があるだろうが、それを絞る必要もあるだろう。僕はこのことを学んでいる。
これら6つの嘘に対する懸念を自分の中で払拭することができれば、次は自分への問いかけが必要だ。自分の掲げる目的に沿った、たった一つこれに絞れば他もすべて解決するようなもの。そう自分に問いかけることが必要だ。優れた問いは、優れた答えを生み出す。成功者は答えを出す作業以上に問いの構築に時間をかけるのだ。
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ここで挙げられている自分への問いのレベルを上げる必要もあるということだ。そのために僕は「論点思考(内田和成)」という本を読んで論点設定について考えた。
③仮説の構築。これについては「仮説思考(内田和成)」を読んだ際の知識が生かせるのでそれをもとに考えればよいだろう。
④検証の実施。ここで仮説の証明には「正しい論理」と「動かぬ証拠」が必要だとされている。「正しい論理」とは、「論理として正しい=数学で言えば、式が正しい」もので、縦横のつながりについての正確性を考える部分だ。「動かぬ証拠」とは、「事実として正しい=数学で言えば、なかに入れる数字が正しい」もので、通常は以下三つのファクトがどれか一つ以上必要になる。それが、1.定量情報、2.一次情報、3.第三者視点(客観的視点) である。ここは定番だけど実はしっかりと実践できていない話だろうか。ネットから適当にグラフとか引っ張り出してきてるけどそれが正しいかとか、そのさらに原典を調べようかというのは案外怠りがち。
⑤示唆の抽出。示唆とは論点を絞り込むために役立つ情報であり、答えの次点である。答えを提示できれば万々歳だけれども答えのある問題なんて世の中ではほとんどないし、上述したように全ての答えらしきものに取り組めるほど時間的猶予もない。まず前提として完璧なファクトというのは存在しない。また、一つ二つの分析で答えを断定することもできない。しかし、提案をしている以上、話し合いを前に進める何らかの意見が必要になる。それが「示唆」だ。以下で示唆について述べられている一文を引用したい。
ビジネスの世界では、論点に「答える」必要はない。仮説を言われた通りに検証する必要もない。論点を絞り込み、方向性を提示する「示唆」が書ければ、それで事足りるのだ。
そして良い示唆を提示するためのポイントが三つ挙げられていた。
①目的と論点をきちんと理解する。
②論点の絞り込みに集中する。論点と目的を理解した上でさらにその論点を分解し、どこに対してファクトを示せばより相手の心に響くのかを考える必要がある。
③検証不能な作業設計をしない。存在しない・細かすぎるデータの使用を必要とする示唆を出そうとしないこと。
このようにここまで提案のための思考について本書で学んだことをまとめてきたが、実際にはそれを提案する場所が必要となる。それが会議だ。本書では会議で提案を通すための方法にも言及なされている。まず改めて考えなければならないなと思ったのは、「議題」と「論点」が違うということである。好き勝手に議題について話していても大事な示唆は生まれない。「議題」から論点を生み出すための自問自答(イシューを生み出す)ことが示唆を生み、タスクレベルへの落とし込みを可能にするのだ。また、提案時に気をつけておきたいのが、その会議は全体の提案の中でどの位置づけにあるのかということだ。それを意識・確認しておかないと相手との間に意識の溝が生じるかもしれない。その時々で相手に合わせた論理展開を見せないと最終的なゴールに結びつかないかもしれない。
そして会議では「着地点」と「着地スタイル」の設計が重要になる。
①着地点について。会議では「位置づけ」をはっきりさせた上で、「イン・アウトプットの明確なイメージ」が必要になる。位置づけについては、すでに上述した部分もある(「議題」と「論点」など)が、ここで三つの視点を改めて挙げておきたい。1.仮説検証思考の視点。2.コミュニケーションの視点。3.問題解決の視点。以上の三つである。おおよその会議と呼ばれるものは、「問題解決」に焦点を当てられているだろう。問題が生まれていないというのは、ある意味では前進していないということを示唆しているし、それを解決するために開くのが会議であるはずだからだ。
②着地スタイルについて。これは相手側のスタイルを理解し、それに合わせることが必要になる。そして、そのスタイルの理解のポイントが三つ挙げられていた。1.読む人か聞く人か。これによってプレゼンか資料どちらに力を入れるかが変わってくる。2.全体観派(横の理論)か芋蔓派(縦の理論)か。横の理論を好む場合は、全体の中で今どこの話をしているのかが重要になるかもしれない。縦の理論を好む人には結論に向かって一直線に進むような意見が必要かつ、相手の理念や信条にフィットするような提案が必要になる。3.トップダウンかボトムアップか。これも横と縦の理論に関する話しだが、どちらかといえば資料の作り方やプレゼンのトーク順に影響を与える考え方だ。相手の好みや背景に合わせて考えよう。例えば、事情に精通している人にはトップダウンで説明するほうが時短に繋がるかもしれない。
このように会議設計に関する部分の教えもあった。かなりチームとしての意識付けが必要になるものだった。何かしら自分主導で会議を設計するときにはこれを確認してから会議に臨むようにしたい。ちなみに資料の作成に関するテクニックも本書には記述されているのだが、それはプレゼンの際に確認用として本書自体を見返すようにしようと思うので、ここには何も記述しない。しかし、これ以外でも学べるところがかなり多くてオススメの一冊である。自分の中で納得いっていなかったロジカルシンキングに対する疑問も解決された(例えば横と縦の論理の話。社内研修だと大体どっちかに偏っている)。ストーリー仕立てでかなり読みやすい本でもあるので、ぜひ読んでみていただきたい。
○読後のおすすめ
すでに読了した方に向けて書いた記事である。