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女のいない男たち(村上春樹)の書評

 先日、村上春樹のエッセイを読んだ。影響を受けやすい僕はすぐに村上春樹の作品を手にとることにした。ちょうど読もうと思いつつ、ずっと本棚に置きっぱなしになっていた「女のいない男たち」がいいだろうと思った。

 

女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

 

 

 本書は単行本にしても、文庫本にしても、その装丁がとても良い。村上春樹の書籍は新潮文庫から出版されると青色の部分が目について、それが村上春樹の作品イメージからかけ離れていて、なんだか残念な気持ちになってしまうのだが、文藝春秋の装丁は(個人的に)村上春樹の作品イメージにマッチしている。単行本では収録作品の「木野」のイメージをイラストで表現しているのも良い。

 

 さて「女のいない男たち」だが、村上春樹本人のまえがきがあるので、興味のある方はそれを読めば様々な背景を理解できるだろう。タイトルを念頭に置いて執筆された本書だが、それぞれの短篇から「女のいない男たち」という共通点を見出すのはなんだか難しい。タイトルはあくまで普遍的な形にされているようだ。つまり「どのような女」がいないのかは明示されていない。第一全く女性が出てこない物語になど誰が興味を持つのだろうか(興味を持つ人ごめんなさい)。本書を手に取る人は、タイトル以上に、各収録作品で何がテーマとして設定されているのかを考えながら読んでいただきたい。村上春樹の作品にはそのような魅力があるのだと考えている。

 

 テーマ設定について上述した。村上春樹自身がどんなテーマを設定して執筆なさっているのかを考えるのもいいが、自分がこれだ!と思ったテーマを深く掘り下げながら、読み進めていくのもいいだろう。僕はこれを「心の傷を受け止めて明日を生きる」こととした(解釈した)。

 内在的な世界を描くことが多い村上春樹の作品だが、本書もそこに照準が当てられている。エンタメ的な出来事が次々起こるとは限らないし、出来事が収束するのかもわからない。ただし登場人物の内面では常に波風が立っている。

 全ての収録作に言及すると時間がかかってしまうので、気まぐれに思いついたままにコメントしたい。

「心の傷を受け止めて明日を生きる」というテーマを設定しているが、生きることができなかったのが、「独立器官」の渡会医師だ。彼は恋を知覚するのがあまりにも遅かったのか、それとも恋煩いで知覚する心の痛みをありのままに受け止めすぎたのだろうか。彼の独立器官が彼に恋を与え、彼を死に追いやったとも受け取れるし、彼が単に受容できなかったとも受け取れる。一般的には後者だが、その背景として、上述した年齢的な問題も関与しているだろう。

 一方で、独立器官が強く働いて好きな男の子の家で空き巣を犯してしまうシェエラザードは、取り憑かれたように空き巣を繰り返していたが、何らかの変化を感じ取った家主(男の子の母親)は防犯設備や方法を変化させることで、シェエラザードの侵入を許さなくした。シェエラザードはそのことに安心する。彼女が無意識に自分が空き巣を繰り返さないように、これ以上精神的な負担を感じないように、空き巣が存在しているあ可能性を家主に伝えているようだ。

 個人的に最も興味を惹かれた作品が「木野」だ。奥さんの浮気を発見した木野は離婚を決意し、伯母から受け継いだお店でバーを開業する。当初はお客さんが集まらなかったが、猫が寄り付くようになってから、徐々にお客さんが集まるようになる。しかし、ある女性との性行為や蛇の出現をキッカケにお客さんは集まらなくなる(もしかしたら奥さんとの正式な離婚や、彼女の謝罪がキッカケかもしれない)。もちろん猫もこない。彼は猫のために作っていた入口も蛇が入ってくる可能性を考えて塞いでしまう。そして神田の勧めで、店を一時的に閉じ、旅に出る。

 彼にとって居心地の良かったバーは彼の内在的な世界ではないだろうか?猫のためにとっておいた入口は彼が他人と何かを共有するための僅かな隙間だったのではないか。彼は熊本で楽しく働く社員や、奥さんの謝罪を通して、考えたくなかった心の痛みを理解してしまったのではないだろうか。そして、絵葉書に言葉を付け加えた。神田が彼の部屋をノックするのは彼を救うためだろうと僕は思う。木野はそれに恐怖を覚えているが、それは彼が向き合うべき心の痛みを受容するためのステップなのだと思う。神田は一般論的には彼を救おうとする存在なのだが、木野はそれと向き合うことに恐怖を感じているのではないか、と。

 

 村上春樹の作品には様々な読み方がある。村上春樹自身もそのような作品を用意しているつもりだと述べていた。本ブログでの意見もあくまで僕個人の読み方なので、色々な読み方の共有ができればなあ、と思う。

 

女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)