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少女は卒業しない(朝井リョウ)を読んだ感想

 「少女は卒業しない」

 とてもいいタイトルだと思った。以前にも言ったことが何度かあるが、朝井リョウの小説はタイトルが個性的で、いいものが多い。それだけで読みたいという意欲を高めてくれる。

 

少女は卒業しない (集英社文庫)

少女は卒業しない (集英社文庫)

 

 

 朝井リョウの小説は、基本的にしっかりとした筋道があるように思える。

 これがいわゆる「起承転結」なのかと問われると、うーんと唸ってしまうのだが、確かな筋道があることは断言できる。これはおそらく、朝井リョウがその物語の中で、大切にしている価値観のようなものを明確に、読者に伝えるための手段なのだろう。

 それゆえに、朝井リョウの小説は結末をある程度予測できるものが、多いような気がする。本書の物語もミステリー小説のように、あっと驚く何を求めるような読者には、向かない可能性が高いし、実際に僕も少しつまらないなと感じてしまう瞬間があった。だがそれ以上に、惹かれる描写が多かったのも、また事実なのである。

 僕は、この描写力こそが朝井リョウの魅力なのだと再確認させられた。

 

 朝井リョウは主人公の目に映る何かをとことん描写しようとしているような気がする。そこに映る何かは物体とは限らない。自分と誰かの間にある関係性だったりする。

「そんなの普通じゃないか」と思うこともあるのだが、朝井リョウはそれらを表現するときにステキな擬音語を頻繁に使用する。

 社会人になると、とにかく端的に、正確に、情報を伝えることが求められるようになる。そうなると、そのような表現はとにかく邪魔になってくる。感情が不要というわけではないが、それ以上に業務上で起こっている事実が重要なのだ。

 今年の4月に社会人になって、日々の業務や学習に翻弄されていた僕は、本書を読んで、人間らしく生きていくのにとても大切な感覚を思い出した気がする。

 社会人としてのロジカルシンキング能力なんかはもちろん大切なのだが、現場を離れたのなら、少し冗長的であっても人間らしくて楽しい表現を覚えたいな、と思った。

 その文体が面白い、本書収録の「在校生代表」から特にそのようなことを感じた。

 

少女は卒業しない (集英社文庫)

少女は卒業しない (集英社文庫)