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『奇想、天を動かす』社会派ミステリーで心を突き動かされた[レビュー]

 島田荘司の『奇想、天を動かす』を読了したので、その感想を投稿したいと思います。

 

奇想、天を動かす (光文社文庫)

奇想、天を動かす (光文社文庫)

 

 

※ネタバレを含む可能性があります

 

 かなりおもしろかった、、、

 島田荘司の作品を読むのは『占星術殺人事件』から二作目でしたが、かなり楽しめました。続きが気になりすぎて、気がつくと読み終えていたという印象です。

 そういえば、初めて読んだ『占星術殺人事件』は金田一シリーズでパクリ?があったみたいです。私はそれを見たことがあったので、一部ネタバレ状態で見ていたわけですから、今回はそれと比較して相当楽しめました。(一部だけなのは、単に忘れていた部分が多かったからです)

 

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)
 

 

 本書、「奇想、天を動かす」は、かなり社会的な出来事を反映していて、読者に何らかのインパクトを与えたものかと思います。

 二十年以上も前の作品なので、検証等から事実とは違う部分が小説内に反映されている可能性はありますし、その辺りの点は、ある種小説を盛り上げるための要素と割りきって、捉えなくてはいけない部分もあるでしょう。ちなみに私は近代の歴史認識に疎い点が多々あり、少し流して読んでいました。むしろ、それが変な先入観を抱かずに小説を読むのに役立ったのかもしれないと思いました。

 

 本書では様々な社会問題に焦点を当てているのですが、これらの問題は現在も紙面を賑わせているような問題だと思います。死刑、冤罪、政治問題、、などなど、これらの問題は学べば学ぶほど、何がいいのか、正しいのかが分からなくなります。少なくとも私は。

 そのような漠然としたものを考えるとき、私は基本的に全体について、最初に考える傾向があるようです。一方で、本書ではそれ以上に呂兄弟を使って、個人に焦点を当てようとしています。個人に焦点を当てることで、全体としての制度や考え方に対する疑問なんかを浮かび上がらせようとしているように感じました。

 

 最後に「犯罪者」でありながら、呂泰永に同情の念を示す吉敷。その吉敷の言葉にそっと耳を傾ける呂泰永は、思わず涙を流します。その表情の描写は、最初の頃と大差ないように思えるのに、なんだか切なく感じさせます。もちろん自身の見方が変わったからなんですが、これだけ読者を惹きこむことができる、作者の力量に脱帽です。

 呂泰永は様々なレッテル貼りやいじめを受けますが、それは全て勝手な認識によって生まれたもの。このようなものには客観的な理由なんてないんだろうな。それを受け続けて、受動的に生きてきた日々の長さを考えると本当に辛い。もちろん、これは架空のお話なんですが、実際にこれだけ苦しんでいる人はいるのかもしれない。いや、いるんだろう。

 私はいつも、このようなことを考えると、結局「目の前にいる人に何か手助けをすることから始めよう」に落ち着きます。そうじゃないとキリがないのもあるかもしれませんが、、、

 

 そんな人にも、いや、そんな人の奇想だからこ天が味方した、という本書の在り方がとても好きです。実に小説らしいし、読み手としてホッとします。これが小説のいいところなんだと思っています。あとは、序盤から頻繁に桜の描写がでてくるのがいいですね。だからこそ、弟の亡骸がそこに収まったのも、劇的に思えました。

 

 

奇想、天を動かす (光文社文庫)

奇想、天を動かす (光文社文庫)