メモで人生を変える(メモの魔力を読んだ感想・書評)
※ネタバレ注意
発売前から大変な反響があった本作。
Twitterを眺めていると、十に一つはメモの魔力に関するツイートだったし、本屋に行くと一番大きな棚にかなりの面積量で積まれていたりした。誰もが前田裕二のことが好きなのだし、彼のような思考力を持ちたいと願うがゆえなのだろう。
そして本書は、そんな彼が度々語ってきたメモ術の完全版ともいえる内容になっている。僕は、数ヶ月前から彼のメモ術をマネしていて、そこで得られるものの大きさに驚くばかりだったので、この記事を読んだ貴方にも、ぜひマネしてみてほしい。
■わかったフリで失うこと、メモの習慣で得られるもの
ついつい分かったフリをしてしまった経験は皆さんにないだろうか?
きっと一回は経験があるだろう。
ちなみに、これはまだよい方で、もっと良くないのは、何もわかっていないのに分かったフリをすることだ。このようなケースの場合、話が唐突に進みすぎて理解できなかったのに、そのまま頷いてるような姿が思い浮かぶ。
これらに共通する問題点は、情報を素通りしてしまっていることだと僕は考えている。
前田裕二が紹介するメモ術は、世の中にある無意識に通り過ぎてしまいそうなファクトが生み出すものものから目を背けずに言語化する作業によって最高の知的生産が生まれる。
つまりメモは情報を素通りさせなくさせる。
きっとこの効用は学校教育の中で誰もが知っている。備忘としてのメモの活用法だ。本書では、それだkではなく知的活動としてメモを使用していることが先ほどの一文からお気づきいただけただろう。
※前田裕二のメモにはフォーマットがあるのだが、それはネット検索か書籍を購入して確認してほしい。
前田裕二は、メモによって5つのスキルが鍛えられると述べている。
①アイデアを生み出せるようになる(知的生産性の向上)
詳細は後述するが、目の前にある事象を抽象化して、それ以外の事象に転用することで、様々なケースにおけるアイデア活用が可能になる。単に事象を受けて「感動した」と思うだけではたどり着けない場所にメモは僕たちを導いてくれる。
②情報を「素通り」しなくなる(情報獲得の伝導率向上)
既に冒頭部分で述べたように誰しも情報を素通りして痛い目にあった経験があるだろう。
実際に僕もたくさんそのような経験をしている。そして、ここ数ヶ月、前田式のメモをする中で気づいたことは頭が冴えるし、他の人よりも先に思考している感覚があることだ。逆にメモをサボったタイミングでは、他の人と変わらないか劣っていることもしばしば……。改めてメモするという姿勢がキャッチする情報量に驚いている。
③相手の「より深い話を聞き出せる」(傾聴能力の向上)
既に述べているように、メモした方が多くの情報をキャッチできるのだから、相手の話を深く理解して、より多くのことを聞き出せるのは理解いただけるだろう。
それだけでなく、メモして話を聴くという姿勢自体を相手は評価してくれることがある。つまり、少しでも相手の話をメモして学ぼうという姿勢を相手が評価して、多くのことを語ってくれるケースである。
ここから学ぶことができるのは、相手との対話で重要になるのは、実際的なやり取りだけでなく、そこにある雰囲気や文脈であるということだ。見た目が9割というのは、一時期、書籍を通じてブレイクし認知されたが、そこから一歩踏み込んで色んな姿を相手に見せることで、相手の話を引き出そうとする姿勢も大事になるということを理解しなければならないと感じる。
④話の骨組みがわかるようになる(構造化能力の向上)
これはある程度意識しながらメモをとる必要があるかもしれないが、相手の話をメモすることで相手が今どの話をしているのかが理解できるようになる。
例えば相手が過去の経験から得られた教訓を話しているとき、相手の話が時系列に進むとは限らない。そこでメモしながら、今その人がどのタイミングの話をしているのか追記していけば欠けている観点が見えるかもしれないし、多少相手の話が前後してもついていくことが容易だ。ここでメモを怠ると、その出来事単位で話を聴いてしまい、重要なポイントや俯瞰的にストーリーを見ることができなくなる可能性がある。
つまり、情報の粒度やストーリーを見る視点ができてくるのだ。
⑤曖昧な感覚や概念を言葉にできるようになる(言語化能力の向上)
メモするということは嫌でも言語化するということで、その能力が向上する。
人によっては「そこまでして言語化することに意味があるのか?」と思うかもしれないが、これは大アリだ。
言語化できないと思考の深まりがなく、再現性のない事象になってしまうと僕は考えている。
かつて小説家に僕は憧れていた。なぜなら彼らは言語化する能力が高く、様々な場面を描いているので人の気持ちもわかる。ということで、人と接する中で僕が抱える問題を彼らなら上手く解決してしまいそうだなと思ったのである。
しかし、本を読んで語彙力を鍛えても人との間で生まれる悩みは消えない。むしろ人が認識している語彙には差異があって、それが邪魔をしているようにさえ思える。じゃあ言語なんて不要なのでは?
とても短絡的な僕はそう思った。が、言語が消えた世界を考えてみると、とても酷かった。僕たちはボディランゲージやそれっぽい記号で、自分たちが思うことの表現をしなければならない。むしろ、言語がないのだから自分が思っていることが何なのかもわからない。カオティックな渦の中で頭を抱える人の姿が脳裏に浮かんだ。
そこで僕は言語の重要性に気づいた。まず自己成長に言語と(後述する)抽象化が欠かせないこと。そして、相手の言語に寄り添い話を聴くことの重要性だ。だから、ここで前田裕二が、言語化の重要性を述べることの大切さが深く刺さる。
■リアルタイムでメモをとるメリット
リアルタイムでメモをとることによって自然と成長することがある。
まず、前田式のメモ術では、4色のボールペンを使用する。色分けによるメモや構造化を意識したメモでリアルタイムの判断力や理解力が向上するのだ。これでわかったフリの防止だけでなく、今話していることの次のステップへ思考が向くようになる。
そして、前田式で特徴的なのが、メモに標語をつけることだ。標語はトークテーマのようなもので、標語を考えることによって、話題を構造化する力が養われ、相手に説明する際にも伝わりやすい話し方ができるようになる。よく結論や着地点から相手に話せと言わるだろう。それを自然と考えさせるのが、標語部分だ。
■抽象化は人類が得たクリエイティブなアクション
前田裕二は異常なくらい言語化することにこだわりを持っている。そして、抽象化することにも異常な熱量を注いでいる。
そもそも前田裕二のメモのフォーマットが、事実→抽象→転用、のフローになっていて、抽象化したことを転用して実践することに重きが置かれている。
抽象化することがなければ、人の会話は成り立たないと言っても過言ではないと僕は思っていて、そう考えると人の日常を支えるビジネスを考える前田裕二が、抽象化に熱を注ぐのは当たり前なのかもしれない。
抽象化では、「他の具体にも当てはめて転用すると、同等以上の効果を得られる」を原則に考える必要があると前田裕二は述べている。僕は、原理原則を導き出せないと抽象化とは呼べないのでは? と変に高くハードルを見積もっていたのだが、これさえ満たせばよいのか、と少し気持ちが楽になった。
本書では抽象化の3つの型が紹介されていた。簡単に記載したい。
①what型。
名前をつけるだけなので、あまり発展はしない。
②how型。
方法や特徴を考えるもの、転用することが容易なので使いやすい。
③why型。
様々な事象の原因を考えるもの。全てに当てはまるかは別としても、ゼロベースで考えるより生産性の良い知的活動になる。これは特に重要な型で、人がなぜそう感じるのかは、他のビジネスでも応用できることが多いので、しっかり腰を据えて考えることが大切だ。
そして、③why型については、以下の4つは特に検討する必要があるものとして挙げられていたので、これに触れる場合は、必ず検討するようルール化してしまってもいいだろう。
①世の中でヒットしているもの。
②自分の琴線に触れるもの。
③顧客からの要望。
④社内で起きている問題や課題。
本書では、我見と離見が抽象化を加速させるとして紹介されていた。
我見とは自分の目、つまり主観から物事を見ることで、メモする場合は主にこの視点を、意識せずとも活用することになるだろう。
一方で離見とは、俯瞰的に物事を見ることで、メタ認知と表現する人も多いだろう。きっと抽象化を重ねていると離見の癖がつくと思う。抽象化される事象は、様々な場面に応用できるもので、つまり客観的に見ることが抽出の条件になってくるからだ。
自分をメタ認知する方法として紹介されていて、面白かったのが、毎日写真を50枚撮るというものだ。写真を毎日50枚も撮っていると、「花ばっかり撮るな」というように自分のその時の傾向がわかるらしい。前田裕二は、ここまでして自分に制約をかけることをするのか! と驚かされた。
このようにして抽象化されたことをとにかく自分の目的に沿って転用していく。そうすることで、自分が学んだ事象から数多くのことを自分事として実践することが可能になるのだ。
■メモで夢を叶える
前田裕二は、SHOEROOMのビジネスモデルをメモから考えたという。なので、言語化することでで夢は叶うと述べている。
その理由として2つ挙げられている。
①マインドシェアの問題。
言葉にして書くことで脳裏に残り、自分の気持ちがそこに割かれる。つまりそこに意識を向けた行動ができるようになるのだ。これは、プライミングとカクテルパーティー理論で証明されていることに考え方としては近いと思う。
これに対する例示として前田裕二が挙げているものが興味深いので、以下に引用したい。
突然ですが「なぜ流れ星を見た瞬間に願いを唱えると夢がかなうのか?」、考えてみたことがありますか? 願いがお星様に届くからでしょうか。おそらく、違います。僕が思うには、「流れ星を見た一瞬ですら、瞬間的に言葉が出るくらいの強烈な夢への想いを持っているから」です。そして、その強烈な夢への想いの結果、片時も忘れず、ずっと願っているからです。想いは強ければ強いほど、行動への反映率が上がります。そして、行動こそが、夢が手に届く場所に僕らを連れて行ってくれます。
言語化に魂を込めているからこそ生まれた解釈で非常に面白いなと思った。
②言霊の力。
言葉にして人に伝えていると自分に返ってくると前田裕二は述べる。
これも確かにそうだろうなと僕は思った。なぜなら、相手は自分をその言葉や態度で評価するので、そういう人という印象を植え付けておくと、それに関連する情報が入ったときに、自分のことを思い浮かべやすくなるのだ。きっとあなたもそうやって友人に情報提供しているはずだ。
だから、自分が絶対に叶えたい夢は、言葉にして周囲に明確に言ってしまうべきだろう。
本書では自己分析に対する強いこだわりも書かれている。
自己分析で事象を抽象化して具体的なアクションに結びつけるのが、その肝になっている。
例えば、そこで得た過去の経験への示唆をストーリー化して人に話すことで、あなたの夢を応援する人になってもらえる。人はストーリーで共感し、学ぶ。言語がないときに記号や絵で横並びにストーリーを書いていた文明の存在から肯定できると僕は考えている。
きっと前田裕二は、数え切れないほど言語化し、ストーリー化することで人を引き付けてきたはずだ。僕たちも彼から多くを学び、実践することで自分たちの夢を掴む必要があるのではないだろうか。