本書が批判されてしまう要因はいくつかあると思うが、おおよそ仕方ないことだと僕は考えている。例えば、確率論で恋愛を語っている部分。ヒットレシオと試行回数でモテは決まると記載されている。現代の恋愛は、完全オープンな自由恋愛市場なので、それ自体に誤りはないと思う。だが、現代の恋愛で賛美されるのは、ドラマや漫画で見受けられる一途なものだと思う。なので、決まった異性を口説きたくて、本書を読んだ人には拒絶したい部分もあったのだろう。特に、主人公が女性を口説いて上手くいく場面は、小説としてシーンを凝縮したいがために、かなりあっけない感じが演出されている(ほんとにあっけなく口説けるシーンも世の中にあるとは思う。文字化すると、よりあっけなく見えるという話)。自分の好きになった異性が、こんな恋愛をしているかもしれないと考えたら、目を瞑りたくなるだろう。
さて、具体的に書かれている恋愛テクも一部言及してみたい。ほとんどの恋愛心理系の本にも書かれているものでいうと「ペーシング」「ミラーリング」「バックトラック」「イエスセット」「タイムコンストレイントメソッド」がある。これらは、多くの書籍に書かれているものなので、ここでは割愛する。どちらかというと、本書で印象的に書かれている、なおかつテクというよりは恋愛工学の考え方の根底に触れられるものを抜粋したい。
本書では、相手を口説くという考え方はあまり使われない。どちらかというと「自分を選びたくて仕方がない」と思わせることに注力する。そのために、上記のようなテクニックを使う。そして、その考えた方を支えているのが、利己的な遺伝子の説だ。説明すると長いので、とても簡単に言ってしまうと、モテる人はよりモテるという考え方だ。これを本書ではモテスパイラルと呼んでいる。つまり、女の子を落とすことを繰り返していくうちに、自然と選ばれる男になることを目指していく。基本的にこれを目指す。必死に、あなたが好きです、あなたしかいない、という口説きは確かに苦しい。多くの人が経験したことのある、相手に選択肢がある惚れたもん負けの世界になってしまうからだ。このような事実に気づけるので、俯瞰的に恋愛を考えたい人は、現代の恋愛思考とは少し離れた本書のような考えを見ておくと良いと思う。
最後に本書の登場人物について。僕はすぐに気づいたのだが、名前が村上春樹のノルウェイの森から拝借されている。凄腕のナンパ師が永沢さんというのは、かなり良い。旅先で出会う女性との会話もぐっときた。そして最後のシーン。いやいやどうなんだそれ、という余白の残る物語設計は小説として素晴らしいと思った。
〇読後のおすすめ
リチャード・ドーキンス 紀伊國屋書店 2018-02-15