2018-08-26 ふがいない僕は空を見た(窪美澄)を読んだ感想・書評 小説 ※ネタバレあります。 ふがいない僕は空を見た posted with ヨメレバ 窪 美澄 新潮社 2010-07 Amazon Kindle 本書で何度も「やっかいなもの」として、男性器や性欲が理性の範疇を越えた扱いにくいもののような描写がされている。印象的なのは『ミクマリ』という短篇で、生まれたばかりの赤ん坊に対して主人公が言ったセリフ。 おふくろが、へその緒がついたままの赤んぼうを仰向けに寝た女の人の胸元にのせたとき、小さな体の割にはでかく見えるちんこが見えた。おまえ、やっかいなものをくっつけて生まれてきたね。 男性の性欲を司っているのが、本当にこいつなのかはさておき。象徴として存在しているこいつを憎む男性は世の中にたくさんいると思う。こいつが存在していなければ……こいつをもっと制御することができれば……そんな風にして失った大切なものを悔やむ人を何度も見てきたし、僕自身も自分の意見がくだらない一時的な欲求に左右されてきたことを認めざるをえない。『ミクマリ』の主人公のように、自分が大切だと思う女性が二人存在するとき、もしも性欲が自分の意思決定に関わってこないとしたら、自分は一体どちらを選ぶのだろう? 僕はそんなことを考えた。そもそも性欲がなくなったときに、自分はどのように女性に接するのだろうか。何を基準にして一緒にいたいと思う人を考えるのだろうか。今、僕はどうやって一緒にいる人を選ぶべきなのだろうか……。あまりにも体に馴染んでしまったあいつのことを考えると、実はそこに生き方の幅を広げる大きなテーマが存在していることに気づく。僕たちはどこまで考えて生きるべきなのだろうか? さて、表題になっている「ふがいなさ」とは何だろうか。僕が幼い頃に抱いていた、この言葉のイメージは「とてつもなく大きなものに負けてしまうこと」であった。何をしてもどうやったって変わらないことに対して諦めることを指す言葉だった。でも、今は違う。「何だってできるはずなのに、自分の気持に負けて行動できないこと」を指す言葉になった。僕たちが考える多くのことは実現可能なことだ。それを行動に移すことが怖いだけ。怖いのは情報が足りないからだ。でも、その情報は行動することでしか手に入らないかもしれない。じゃあ行動した結果、大事な情報が入って、取り返しのつかないことになったらどうする? あまりにも弱い僕はこんなことを考えてしまう。これ自体がふがいなさである。僕たちは常にこんな風にして心の隙間に割って入るふがいなさと対峙しながら生きているのかもしれない。 〇読後のおすすめ 本書と似た要素をどこかで感じる小説をピックアップする。 bookyomukoto.hatenablog.com bookyomukoto.hatenablog.com ふがいない僕は空を見た posted with ヨメレバ 窪 美澄 新潮社 2010-07 Amazon Kindle