湊かなえらしい一冊だった。様々な思惑がパズルのように入り乱れており、それが最後の独白ひとつで一気に組み合わさっていく。でも、そのパズルの正解を読者に提示することはしない。今までの状況をよく把握すれば、そういう答えになることは当然ですよね? そう投げかけられているようにも思えた。
僕は、この正解のないパズルの感覚が好きで、読んでいて心地よかった。人によっては、答えの提示されないミステリーに苛立つかもしれないと思う。しかし、小説を娯楽であると同時にリアルな世界で生きていくための教養として捉える僕のような人間からすると、この正解のない感じは、いかにもリアルだ。どこまで情報を仕入れて、どこから自分の推測で割り切るのか。そんな選択を強いられているような感覚があった。無論、小説という娯楽だからこそ明示的に回答を示してほしいと思う人もいるだろう。そのようなタイプの人には、湊かなえの小説自体が不向きなのかもしれない。
本書の帯には「善意」に関する一文が記されている。本書を紙で購入した方は目にしたことがあるかもしれない。正確には記憶していないが、善意が一番怖いというような趣旨の内容だったと思う。最初のうちは、慈善団体として活動する母親たちの善意を捉えた一文だと思った。しかし、読み進めているうちに彼女たちにはそれぞれの思惑があって、そこに善意が介在している割合は非常に薄いのだと知らされる。じゃあ一体何なんだ。そう思っているうちに、結末で明かされた内容から様々なことを察することになった。これを読んで思ったのが、大人の善意には論理がつきまとっているということだ。論理は自分たちを納得させるうえでとても大切なものになる。納得感のない行動に情熱はついてこない。しかし、その論理性が他者にとっては偽善のワンパーツに思えるのかもしれない。SNSで度々見かける偽善叩きのことを考えているときに、本書を読んでそんなことを思った。
〇読後のおすすめ
最後の一文で全てが覆るようなミステリー小説を読みたいのであれば、本書がおすすめ。