2017-09-10 1973年のピンボール(村上春樹)を読んだ感想・書評 小説 1973年のピンボール (講談社文庫) posted with ヨメレバ 村上 春樹 講談社 1983-09 Amazon Kindle 今更ながら本書を読んで、村上春樹が小説を通して考えていることの一端が垣間見えたような気がする。この考えに至ったのは、おそらく私がソクラテスやプラトンに関する書籍を読み漁っているからで、つい最近読んでいた「パイドン―魂の不死について (岩波文庫)」に同様の記載を見た覚えがあったからだろう。これには、ソクラテスの死生観や魂と肉体への考察が記されている。もっともこれを書いたのはプラトンなので、ソクラテスというよりはプラトンの考えなのかもしれない。しかし、反対の事象、例えば健康と不健康や楽しいと悲しい、そして生と死は対極にありながら、一方通行的な状態遷移をしないはずだという考えはかなり面白かった。つまり、どの状態から始まろうとも健康な状態から不健康な状態に移ろえば、不健康な状態から健康に移ろうことがあるはずで、これらは循環するような形をとるはずである、と。この考察から生と死、それに伴う魂への考察が始まるのだが、この考えを物語に村上春樹は組み込んでいると思うのだ。 例えば村上春樹は、道なりに突然現れて、登場人物に妙な不安感を与える穴や井戸について書くことがある。もしくは本書にも記載がある部屋や倉庫もこれに当てはまる。彼らはそれらの中に閉じこもることで何処かに出ようとしている。一見すると閉じこもるのにどこかに出ようとするのはおかしな表現だが、私はそのようなことを思う。そこにはパンク小説のような圧倒的な疾走感はないかもしれない。しかし、自分を取り囲む世界の中で自分の呼吸に耳を澄ますして必死に生きようともがく人間の意志が感じ取れる。彼はその部屋の中で新しい価値を持って生きようとする人間と、彼らが直面する入口と出口について考えているのだ。 本書に登場する人物たちは、入口をしばらく通過し、退屈な通路を人が示す方に向けて歩いている。しかし、それに疑問や不満を感じ、支持から逸れて歩いているうちに、今度は自分の向かう先が見えなくなったのだろう。そんな彼らにも大切に思う人がいる。入口と出口の間には、そのような出会いがあり、心を揺さぶる別れがある。手垢のついたこのようなテーマをこれだけ新鮮でみずみずしい文章と共に物語化できる村上春樹の筆力に脱帽するばかりだ。 最後に私のブログを読んでから、改めて本書を読み返してみてほしいと思う。おそらく入口と出口の見え方が異なることに気づくはずだ。そしてネズミ取りについての記述がとてもシュールで笑えるものであることにも気づくだろう。 ○読後のおすすめ 騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 posted with ヨメレバ 村上 春樹 新潮社 2017-02-24 Amazon Kindle 楽天ブックス ノルウェイの森 上 (講談社文庫) posted with ヨメレバ 村上 春樹 講談社 2004-09-15 Amazon Kindle 楽天ブックス bookyomukoto.hatenablog.com