一時期、エンドコーナーに平積みになっている本書を様々な書店で見かけた。現代的で惹かれやすいタイトルと桜が描かれた装丁に何度も目が移った記憶がある。僕は何度も手を伸ばしかけたのだけど、当時は僕の好きな作家の作品がいくつも文庫化されだした頃で、結局購入する機会は一度もなかった。
それから三ヶ月後、本書を読み終えた職場の先輩からおすすめされてついに本書を手に取った。
本書は、タイトルに記載があるとおり病院を舞台にした医療モノの小説である。繋がりのある中篇が三作収められていて、ページ数のわりにスラスラと読むことができた。三人称で書かれているが、それぞれで焦点が当てられている人物がいて、彼らの心理は文中にしっかりと描かれている。医療モノは、難しい医療用語と登場人物の心理描写の書き方が難しい。一人称にすると難しい言葉か、逆に簡単な言葉で埋まってしまうかもしれないし、三人称にするとキャラとの距離が遠くなってしまうかもしれない。そのバランスが難しい。そう思いながら読む時間もあった。
正直に言ってしまうと文章自体はさして上手いと思わない。だが、この作品に込めた思いや、キャラを活かそうとする意欲は強く感じることができた。だからこそ、本書を読んだ多くの人に何かを伝えることができているのではないだろうか。
僕は本書に出てくるような命に関わる病気を患ったことがない。だからだろうか。逆に、今の自分が本当に健康なのだろうかと不安に思ってしまった。そして、自分はこうなったときに、もしくは周囲の人がこうなってしまったときに何ができるのだろうかと考えさせられてしまった。これが作者の狙いの一つであることは明白だが、僕は嬉しいような寂しような形容し難い気持ちになっている。以前よりも健康に気を使いつつ、周囲の人との関係も大切にしながら、自分のやりたいことに時間を裂く本当の自分のための時間の作り方を考えなければならならいのだろう。そんな生き方をしたいと思った。
○読後のおすすめ
自分らしく生きることを考えると本書のことが頭を過る。読みやすい文体と笑いのエッセンスが込められた文体に惹かれて読んでいても最後には熱い想いが込み上げてくる。そんな小説だ。