いつか、すべての子供たちに――「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと
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ウェンディ コップ,Wendy Kopp 英治出版 2009-04-07
大学生の終盤、私が就活をしていて出会った尊敬すべきビジネスマンがいた。彼はとあるベンチャー企業で働いていて、情熱とそれを成す力を持っていた。一学生である私にビジネスマンとしての力量が見極められるのか。そう思う方もいらっしゃるのかもしれない。しかし、当時の私にはそれが明確にわかった。本当に優れた力を持つビジネスマンは誰に対しても特異なオーラを放っているものなのだと思う。ワールドクラスのスポーツ選手のプレイが、世界中の視聴者の目を惹くように。
彼は世界に誇れる日本のシステムを構築することに情熱を注いでいた。システムというとIT技術を駆使したサービスが真っ先に頭に浮かぶ。しかし、彼が考えていたのは、どちらかというとビジネスモデルのようなシステマチックな人の動きを指していた。そして彼がそのシステムのモデルとしていたのが、ティーチフォーアメリカ(TFA)だった。
TFAについては、ネットでも調べることができるので、詳細を知りたい方はぜひ検索してみてほしい。私が興味を持った部分は、まさしくそのシステムにある。つまり、アメリカの教育問題を解決しながら、そこに携わる大学生に圧倒的なリーダー経験を与え、教育会や有名企業への就職を可能としたそれだ。私が就活で出会った彼もこの仕組に憧れを抱いていた。そんなTFA発足に関する一冊が本書になる。華やかな部分ばかりを見てきたけれど、やはりその裏側は泥臭かった。
まず、NPOにしたって企業にしたって、同じ意志を持った仲間を集めることで目的を達成しようとする人が多いだろう。しかし、同じ意志を持った人を単に集めるだけでは目的を達することはできないのだ。企業では、それだけで人を雇うことはないだろう。求めている職種に関する知識や技術を必ず問われる。しかし、NPO団体ではスキル以上に気持ちの面が強く求められやすい。するとTFAのように規模が大きく、かつその中でも優れた力が求められる団体では、不適任な職に就く者や力が足りない者が出てきてしまう。また、マネジメントを行うものがそれらの知識を有しているかも分からない。TFAでは、まさしくその状態に陥ってしまったのだ。やはり組織の運営とは難しい。
マネジメントの経験不足だけではない。資金不足も大きな課題となって日々彼女らの行く手を阻んだようだ。NPO団体なので資金の提供源の確保がとても重要になる。しかも彼女らは、アメリカの広範囲でこのサービスを開始しようとした。アントレプレナーのような「小規模から始める」思考は、TFAにはなかった。それゆえにそれらを支える資金が切実に求められた。それらの描写はあまりにもリアルで、自分たちが起業などの経験をすれば、どれだけユーザのためを思ったとしても、このような場面に出会う可能性があるのだろうなと考えさせられた。そのときに私たちは周囲の仲間をちゃんと認識できるだろうか。イライラを隠せずに無駄にあたったりしないだろうか。目の前のお金にばかり目がいかないだろうか。こんなことに手を出さなければよかったと後悔しないだろうか。そんなことを考えながら読んでいると以下の文章が目に入った。とても気持ちのこもった文章だ。
ここまでの何年かで私が行った選択に関しては、あまり後悔することはできない。当時の私が私であったことからは逃げられないし、そのときの経験があったからこそ、いまの私なのだ。仮に、新しいアイデアを実行に移す前に資金を確保する必要があると当時から認識していたとしたら、そもそもティーチ。フォー・アメリカは誕生していなかっただろう。
反省はしてもいい。でも、最初に思った根本的な欲求や思いは、決して忘れないようにしたい。そう思わせる文章だ。
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