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殺人犯はそこにいる(清水潔)を読んだ感想・書評

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 桶川ストーカー事件を解決に導いたことでも有名な著者の一作である。実はここ最近話題になっていた「文庫X」の内容が本書であったことも先日明かされた。僕はまんまとその企画に乗せられて購入したわけだが、確かに本書はどんな手段を使ってでも、たくさんの人に届けたい内容を備えた本である。
「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と聞くと分からない方でも「足利事件」と聞くと理解を示すことが多いだろう。冤罪事件として世間を大きく賑わせた。一方で冤罪という一事実にばかりフォーカスしていたり、表面的に冤罪について理解している人が多かったりする。何を隠そう僕もその一人だ。その裏にあった事実や問題点については全く知らなかった。そもそも足利事件は、これ一件で完結する事件ではない。
 足利事件で冤罪の可能性を追求し、千葉刑務所にて苦しい日々を耐え抜いていた菅家さんを救い出したメンバーの一人が著者の清水記者である。彼は「日本を動かす」という重要なミッションのもと取材にあたっていたわけだが、冤罪の可能性を説きたかったわけではないという。あくまでも群馬・栃木で発生しているいくつかの事件が連続しているように思えるのに、それぞれの県警が5つの事件を連続して捉えていないことに疑問を抱いていたにすぎなかったようだ。
 それがなぜ足利事件につながるのか。清水記者は5つの事件は連続していると考えたのに、その内の一件でのみ犯人が逮捕されており、解決済とされていることがおかしいと考えたのだ。結果的に警察や科警研の杜撰な操作や事実の捻じ曲げ、隠蔽をたった一人の記者が日本中に発信していくことになる。そこに協力する遺族やかつての目撃者の証言。当たり前なのだが一つ一つがリアルで、頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。どんな小さな声も逃さないで1次情報にぶつかるジャーナリストとしての本当の働きを見た気がする。
 マスコミの働きに疑問を抱く人はたくさんいるだろう。遺族や事件周辺の人に迷惑をかけた挙句、警察が担保していない情報は流さないので、どこもかしこも起こったことをそのまま報じるだけであったりする。そのようなマスコミは清水記者のように情報から背後にある何かを見ようとはしていないのだろうと思う。マスコミとは何ら関係ない仕事をしていてもそうだと思うが、情報をただ流すだけなら人よりもネットの方が優れているのだから、そんなことをする必要なんてないだろう。ピーターティールが著書で述べている「隠れた真実」を探し当てるのにマスコミはとても近い位置にいると思うのだが。
 僕がこの記事を投稿する際に恐れているのは、この記事を読んで「殺人犯はそこにいる」について理解したように勘違いすることである。清水記者が文中でも述べているが、本にして発表されているのは、そこに生きた人間の苦悩や葛藤があり、それを様々な人間が彼のことを信じて述べているからである。このブログだけでは何もわからない。絶対にだ。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

○読後のおすすめ

奇想、天を動かす (光文社文庫)

奇想、天を動かす (光文社文庫)

 たった一つの事件の背後にある何かを解明しようとする推理小説。社会派ミステリーが大好きだ。誰もが何かを考えさせられる一作だろう。