マドンナ(奥田英朗)を読んだ感想・書評
40代会社勤めの男性を描いた短篇を五作盛り込んだ短篇集だ。
かなりテンポ感の良い文体で、主人公の心理や物語の起伏を味わうことができる。とはいっても、物語中で起きる出来事はかなり日常的に起こりうるものばかりで、話の要約を見ても何が面白いのかは全く伝わらないだろう。奥田英朗自身も小説の良さは(特に現代では)描写だと明言しているのを見たことがある。彼自身が主人公の境遇を思い描くことで、リアルなタッチで笑えるし読後のスッキリ感も確保された素敵な短篇集に仕上がっている。
上記で笑えるということに言及しているが、小説で笑いをとるのはかなり難しい技術であると把握している。「文字」だけで笑わせることもそうだし、何よりも読者は「縦に文章を読んで、センテンスごとに視点を横にスライドさせる」わけだから、文量は多すぎると平べったい文章だと思われてしまいそうだし、あまりにもワンセンテンスが短いと、薄い文章だと印象付けられてしまう可能性がある。またネタの内容次第でも引かれてしまうかもしれない。奥田英朗は個人的にそこらへんのバランス感覚に優れている小説家だと思う。何か文章で笑いをとりたい人なんかは、一通り奥田英朗の笑える短篇シリーズに手を出してみるといいのでは?
〇読後のおすすめ作品
マドンナのテイストで書かれている作品。マドンナが気に入ったなら読むといいかも。
奥田英朗が手掛ける精神科医伊良部シリーズ。二作目の空中ブランコが直木賞を受賞しているので、一作目の本書を読んでみてはいかかがだろうか。文体はマドンナに似ていて、より笑える作品になっていると思う。