本を読むこと-読書から何かを学ぶためのブログ-

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i(西加奈子)の書評・感想

 

i(アイ)

i(アイ)

 

 

「この世界にアイは存在しません」

 主人公の名前はワイルド曽田アイ。アイという名前をもつ彼女にとっては衝撃的な言葉で物語は幕を開ける。

 西加奈子は冒頭の一文が決まれば文章を書き始めると聞いたことがある。「この世界にアイは存在しません」という一文は、キャッチーで文中にも何度も登場する。この一言はアイを苦しめる言葉になる。アイが考えていたことを一言に凝縮したようなものであると、アイは感じたからだ。そんなアイの考え方はサラバ!の須玖が追い詰められていたものに非常に近い。様々な事件や災害で命を失っていく人間のことを考えすぎて、追い詰められてしまう。もしかしたら読者の方も同様の考えを抱いた経験があるのではないだろうか?「どうして僕じゃなかったのか」「どうして私は免れたのか」

 アイにとっての苦悩は単にその人たちの命を想うことに留まらない。自分自身がシリア出身でありながら、養子として日本人の母と、アメリカ人の父のもとで育っていることから、「自分は戦争などの危険から生かされた」「代わりに死んだ人間がいるのではないか」という強迫観念のようなものに苛まれる。僕には彼女の悩みがわかるようで分からなかった。それは当然のことなのかもしれない。僕はこの本を読むまで、「移民」「養子」といったものを、簡単にとらえすぎていた。なんだか大きな一つの出来事として見ていた。しかし、そこには確かな命が一つひとつあるのだ。そしてそれぞれの境遇を持ち合わせている。僕たちは簡単にマスコミの媒体が伝えるものをそのままに受け入れてしまっているのだと思った。

 西加奈子がどのようなきっかけで本書を執筆しようと思ったのかはわからないが、これだけリアルな小説を書くことは彼女の負担になっただろうと思う。実際の出来事について文中に取り入れたことなんて特に。もしかしたらそれが西加奈子にとって、負担を取り除く行為になっていたのかもしれない(そうだったらいい)。西加奈子の作品には主人公が自分の生き方について考えているものが、多いような印象を受けている。しかし本書は自分の生き方を考えるために、見たこともない他者の命について考え抜いている。きっと読者にも考えの幅を広げるためのきっかけを与えてくれるだろう。

 

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i(アイ)

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