聖なる怠け者の冒険(森見登美彦)の書評
かわいい怪物たちが装丁に描かれている森見登美彦の作品がついに文庫化された。舞台はやはり京都で、ぽんぽこ仮面という狸の怪人が大暴れ? くだらないけど気が付けば次のページをめくってしまう不思議な物語であった。
森見登美彦の作品は二分されると僕は考えている。
「実にくだらない冒険物語」と「怪談的要素を備えている作品」の二つだ。本書は前者の作品群に当てはまるだろう。ただし、以前の森見作品のキャラが出てくることが多々あり、その中の一部のキャラがホラーじみてるので、苦手な僕はいちいちひやりとさせられた。そのせいで最新作の「夜行」にも手が出せていないのである。
さてさて、森見登美彦の良さと言えば、冗長すぎるほどのくだらない表現であると僕は思う。本書でもそれらは抜群に効いている。小説を読んでいるのに、コメディ漫画でも読んでいるようなリアクションをしてしまった。個人的には恩田さん、桃木さんカップルのやり取りに筆者がツッコミを入れる場面が最高に笑えたので、ぜひ読んでいただきたい。
とにかく面白いということしかコメントできないのだが、最後のシーンで一つだけ気になっていることがあるので、それについて考えたいと思う。読み進めていれば答えは出てくるし、そんなに読まなくとも文脈からいとも簡単に、ぽんぽこ仮面の正体はわかってしまう。そのぽんぽこ仮面が最後のシーンで大群衆の中、自分の想いの丈を叫ぶのだが、これはデビュー作の「太陽の塔」のラストシーンに似ているように思える。森見登美彦はどうしようもない想いを大群衆の中で叫びたいという欲求があるのか。大群衆の中で叫ぶことに最高のカタルシスがあるのではと考えているのか。ちなみに僕は群衆の中で叫びたいようなことがたくさんある。革命とかたいへん変態なことをするわけではないので了承いただけないだろうか。