もう一度生まれる(朝井リョウ)を読んだ感想
なんて強く人を惹きつけるタイトルなのだろうか。
初めて本書を目にしたとき、僕はそう感じた。物語のすべてをひと目で見ることができない世界で、その物語に与えられたタイトルは強い意味を持つ。朝井リョウはタイトルで人を惹きつけるのがとても上手い。その才能は錆びついていないことを感じさせた。
上述しているように本書は何よりもタイトルが素晴らしい。しかし、物語の内容も負けず劣らず素晴らしいのだ。
個人的に一番ぐっときた話は表題にもなっている「もう一度生まれる」だ。短篇集という形をとっている本書の短篇の中でも、描写力が群を抜いていると思った。
今までに別の短篇で登場してきた人間たちを別の角度で描いているのに、違和感なく物語に溶けこませる技術や最後に主人公が飛び込むシーンの鮮やかさが素晴らしい。本を読みながら、その描写を可能な限り鮮明に思い浮かべようとする方は多いと思うが、そのような方に「もう一度生まれる」は間違いなくオススメだ。
もちろん(?)、朝井リョウが得意とする短篇それぞれが絶妙につながっている要素も楽しめるので、順に読んでいってもいいだろう。というよりも、それを強く薦めたい。
僕は本書のタイトルを見たときに、「これはきっと大学生の話だ」と思った。そして、それはおおよそ的中していた。
なんでそのように思ったのかを改めて思い返してみると、僕自身が大学生活を通して、何度か生まれ変わったような経験をしたと感じているからだろう。世間から隔離されたような、あの特別な環境で人は個を貫いたり、適応したりと様々な努力をして自分を守ろうとする。僕は前者も後者も経験したことがある。だから何度も生まれ変わった。
僕は朝井リョウが「人は特別な何者かを目指す生き物だが、結局自分自身がその軸にはあって、自分と向き合わないかぎり何も変われない。だが、自分自身と向きあえば人は何度でも生まれ変われるんだ」というメッセージを込めたのではないだろうか、と思っている。
僕は自分自身と素直に向き合うことが非常に苦手だ。理屈でわかっていても体が言うことを聞いてくれない。だけど、そんな人にこそ物語はすっと胸に入ってきて、力を与えてくれるんだと思っている。