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遮光(中村文則) 自分のための嘘は他人のための嘘にもなり得るのか[レビュー]

 中村文則の「遮光」を読了したので、その感想を投稿したいと思います。

 

遮光 (新潮文庫)

遮光 (新潮文庫)

 

 

※ネタバレを含む可能性があります

 

 「遮光」はあらすじから興味を引かれた方も多いのではないでしょうか。僕はむしろ、そのあらすじが独特で内容も陰湿そうだったので、購入したものの「読み時はまだ先だな」と本棚に並べたままになっていました(決して忘れていたわけではありません)。今回、それを手にしました。結果的に読んでよかったです。というかおもしろかった。

 

 本書の主人公は虚言癖の男性です。彼は日常的に嘘をついてしまう。同時に何かを演じる自分に、その空間に酔ってしまうのです。そんな彼には彼女がいたのですが、不慮の事故で帰らぬ人となってしまいます。元々はその彼氏としての役割を演じていただけに過ぎない主人公も彼女を失ってから、彼女を本当に愛していたと知ります。その後、彼女遺体から指のみを取り、瓶に入れて持ち歩くようになります。

 正直これだけでも訳分からん設定ですよね(笑) よくこんなの考えついたなあ。

 

 本書は読み方や感じることが人によってまちまちになる傾向が強いと思います。それだけ独特の内容だと思いますし、描き切っていないので想像の余地もあるわけです。

 僕が特に注目していたことは虚言癖の男の言動と、周囲の認知についてです。主人公は両親を失くし、一時的に預かってもらっていたおじさんとの会話から演じることを覚えます。その演技は周囲からすると、あくまでも演じているものではなく本来の彼として認知されてしまいます。「あいつなんか変わってるよな」とか「あいつたまに嘘つくんだよ」みたいなことも多々ありそうで、結果的に「あいつはそういうやつなんだよ」という感じで、本人が演技しているなんてことは関係なく、悪いイメージは一方的に植え付けられてしまいます。これは「遮光」のエピソード内のような得意な状況よりも、もう少し、普段の生活に近い状況で生まれやすいものだと思います。

 誰しもにありがちな話かもしれませんが、学生時代に何かテンプレ通りの出来事を体験して「なんかドラマみたい!」と心を躍らせるような出来事。そのような体験をしているときって何かを演じているような感覚がつきまとってきて、僕はいつも違和感を感じてしまいます。最近はテンプレ通りのことをツイッターなんかで見て、体験することも多いので尚更です。なんだか、あらかじめ分かっていたような喜びを再現きているような気になってしまいます。結局それを上回る楽しみをそこに見いだせなければいけない時代になってしまったような気がします。もしくはそれらを遮断する勇気が必要なんでしょうね。

 

 主人公は上手く生きていくために嘘をつきます。それはある種、自分のためでもあり、他人のためでもあったわけです。それがいいのか悪いのかイマイチわかんないやって思いました。結局、嘘をつかない人なんて、そうそういないし、その時々のケースバイケースで、使い分けていくことなんかを意識しないと偽の自分が、本来の自分自身を侵食していくような感覚に襲われそうな気がします。

 

遮光 (新潮文庫)

遮光 (新潮文庫)

 

 

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