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限りなく透明に近いブルー(村上龍) 無気力と絶望の間で生きる[レビュー]

 限りなく透明に近いブルー村上龍)を読了したので、その感想を投稿したいと思います。

 

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

 

 

※ネタバレを含む可能性があります

 

 村上龍といえば、私のイメージはビジネス業界に近かったと思います。たぶん出演している番組の影響もあるのでしょう(といかそれがほとんどなのですが)。

 数年前に初めて村上龍が本を書いているという事実を知った際に感じたことは、それこそ「あ、この人って本書いてたのね。あれ? 小説なんだ」というような感じです。あとは「村上春樹と被るんだよな」とか(笑)

 失礼な話ですが、実際にこのように思っている人は割合多いんではないでしょうか。しかし、実際に小説を読んで、「あぁ、これが本当の村上龍なんだな」と確信しました。私は今後も村上龍の小説を読み続けることでしょう。

 

限りなく透明に近いブルー」を読んでいて目を惹くのは、その描写です。そのメチャクチャな主人公たちの生活にも注目すべきですが、描写の重厚さが私の中では特に印象に残りました。度々出てくる腐ったパイナップルや嘔吐の描写では、読者がその場にいるような経験をもたらしてくれると思います。主人公たちの荒れた生活をさらに汚らしいイメージに近づけると同時に私がそのような生活とかけ離れていることに感謝の念さえ覚えました。

 このような描写は現実離れしていると同時にどこかリアルを感じさせます。そのために私はいちいち吐き気をもよおす主人公の描写に気持ち悪さを感じたりしていました。この気持ち悪さはストーリーを通して失われることはありません。芥川賞の選評で金太郎飴のような小説と評されたのもそのためでしょう。基本的に終始気持ち悪いほど重厚な描写が続きます。この気持ち悪さ故に、警察官が出てくる描写で私は微かな安心感を抱きました。少しばかりの現実感を手にしたんだと思いました。本当に少しでしたが。

 

 主人公のリュウはどこか客観的に自分のいる世界を見ようとしています。希望なんて無いその世界で、どこか外国への憧れなんかを隠せない仲間たちと。そんなリュウをリリーは赤ちゃんの目のように何かを見ようとしている、と評します。読者としてその意見にはある程度同意できます。ある程度だけですが。

 ではなぜ、完全に同意できなかったのか。それはリュウが十九歳だからです。もう年齢的にはほぼ大人であるリュウは、自身が見ている物事を本人さえ気が付かないうちにダメージとして蓄積させてしまっているんだと思うんです。本人が望んだのか、もしくは限定的な道があり気がつくとその世界でした生きることができなくなったリュウ。その世界の中でリュウはもがき苦しんでいたんだと思うのです。それが蓄積されてラストの描写に繋がったのではないでしょうか。

 

 リュウはその世界をある種客観的に見ることで、生きる希望を喪失しているかのように思えます。一方で、リュウはそんな世界でも生きようとしているんだと感じました。その代償行為が何かを見続けることや自分を痛めつけることなんだと思います。何かを見続けることでその存在理由なんかを感じようとしたのかなあ、、、痛めつけることで自分が世界と繋がっていることを感じようとしていたのか、、、死が近い場所に身をおきながら、死には恐れがあったリュウ。ヨシヤマを病院に連れて行くまでの過程が抜けていますが、そのような意志を友人にも無意識的に見せていたのかもしれないと思いました。

 

 最後に。リュウが度々想像していた都市や烏なんかのことはイマイチよく分かりませんでした。私の簡単な考えでは想像した理想の都市が自身の漠然とした希望であって、それと現実の街。その街はリュウのような人間を異質とみなし迫害する。そんな理想と現実のギャップが烏になって現れるのではないだろうかと思いました。

 

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

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オールド・テロリスト

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