読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

本を読むこと-読書から何かを学ぶためのブログ-

書評依頼お待ちしておりますm(_ _)m ※ネタバレありのブログです。

PK(伊坂幸太郎) ひとつのPKにはどれだけの裏話が隠れているのだろうか[レビュー]

小説

※ネタバレを含む可能性があります

 

 

PK (講談社文庫)

PK (講談社文庫)

 

 

*PK(伊坂幸太郎)の感想

 本書は文芸誌に掲載された三作の中編小説を一部改稿することで、繋がりが感じ取れるようになされている文庫本です。文芸誌に掲載されたということもあってか、伊坂幸太郎もストーリー展開以上に文体や表現に神経を使っているようです。前作までの伊坂作品とは様相が違っているように思え、読者としてもその変化に意外性を感じました。

 

 度々エッセイで「純文学」と「大衆文学」の違いについて語っている伊坂氏ですが、その違いについて意識しながら読んだ方はどれぐらいいらっしゃるのでしょうか。もしも、エッセイ集を読んだことがないのならば、ぜひそちらにも目を通してみてください。

 小説家はその文書に、その人ならではの価値観を存分に詰め込みます。私はそんな文章が好きで小説を手にします。伊坂氏のようにエッセイで自身の考えを語ってくれている小説家の存在は貴重です。小説で感じたことを、エッセイでも伺うことができるからです。

 もちろん小説から感じ取りたい。余計なフィルターは不要だ、という方はむしろ読まないことを推奨いたします。

 

 表題にもなっているPKですが、メインの語り手はサッカー選手だけではありません。小説家や政治家など様々です。時系列もぐっちゃぐちゃで、伊坂作品を読み慣れていない方は、読んでいて疲れるかもしれませんね。

 それでもPKのラストシーンにある大臣と秘書の会話はぜひ読んでいただきたい。思わず笑ってしまいますから。

 

 

3652: 伊坂幸太郎エッセイ集 (新潮文庫)

3652: 伊坂幸太郎エッセイ集 (新潮文庫)

 

 

*コバナシ

 PKという表題を見たときに思い出した出来事がある。

 中学の体育大会でクラス対抗サッカー大会に参加した時のエピソードだ。長袖の青いジャージに身を包んでいたことから、秋口に開催されたのだと思う。

 私は小学校のスポーツクラブでサッカー部に属しており、久しぶりのボールを蹴る感覚に気分が高揚しきっていた。試合を待たずして、かつてのチームメイトでもある同じクラスの友人のSくんと真剣にリフティング対決をしていたことを覚えている。

 それを見た他のクラスメイトは「お前、サッカー出来たのかよ!」「うめえじゃん!」とひっきりなしに褒めてくれた。気を良くした私は、試合にもハイテンションで臨んだ。

 実際に試合ではフィールドプレイヤーとして上場の活躍を見せたものの試合は一対一で、延長線なしのPK戦に突入した。

 私はひどく怯えたはずだ。なぜならば、私はプレッシャーに弱く、スポーツクラブ所属時からPKが苦手だったからである。

 私は真っ先に「自分は蹴らない」とチームメイトに伝えようとした。が、チームメイトは「お前さっきのリフティングも上手かったんだから、PKも上手いだろ!」と期待を持たせるような言い方をしてきた。

 私は咄嗟に否定しようとしたが、そんな暇もなく体育教師がPK戦開始の合図を告げた。気がつくと私は二番目の位置に立たされていた。サドンデス式のPK戦だったので、一度外して決められたらお終い。そこで二番目のキッカーが持つ意味合いは大きい。

 私は狼狽した。気がつくと私の順番だった。どちらのチームもPKに成功していたのだ。

 私は嫌々スポットに立った。周囲から声援が聞こえる。相手のゴールキーパーは中学サッカー部のレギュラーだ。かなりいいシュートを打たないと厳しい。地面は固く、ランニングシューズでは踏ん張りが効くか不安だ。

 私は思い切って助走をとり、ボールを蹴った。

 思った通り、ランニングシューズでは軸足の踏ん張りが効かず、滑りながらボールを蹴った。なんとか利き足に当てたボールは低速でゴール右に転がっていく。それをゴールキーパーは悠々とキャッチし、右手を掲げた。私の周囲から音は消え去り、体育教師が終了の掛け声を出していた。

 落ち込み身動きがとれなかった私のもとに友人のSが駆け寄ってきて、「ドンマイ」と笑いながら声をかけてきた。他のチームメイトも笑いながら、「放課後まで遊び放題だな!」と叫んでいる。

 こんなことすぐに忘れられるといいのに、なぜか中学校のエピソードでも特段色濃く記憶に残っている。友人のSがあのとき、すぐに駆け寄ってくれていなかったら。そう考えると、またこの記憶の持つ意味合いも変わってくる気がする。

 

 

 

PK (講談社文庫)

PK (講談社文庫)