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満願(米澤穂信) それぞれの願いの行先を見届ける。[レビュー]

 米澤穂信の『満願』を読了したので、その感想を投稿します。

 

満願

満願

 

 

※ネタバレを含む可能性があります。

 

 本書はこのミス2015年版で第一位に輝いた作品です。

 本格的なミステリー作品ではないものの、読み手の興味を引く、短編が六作用意されています。

 私は本書を通して、初めて米澤穂信作品に触れました。

 当初のイメージは『氷菓』というアニメ作品の原作者であることぐらいしかなかったので、あまり手をつけようとは思いませんでした。

 そんな私が本書を手にとったのは、このミス2016で、米澤穂信が再び第一位に輝いたことを知ったからです。連覇はこのミス史上初の快挙らしく、それだけで書き手としての米澤穂信の力が証明さているように思えました。そして、私は『満願』で米澤穂信デビューを果たすわけです。

 

 本書は地の文が基本的に一人称視点になっており、風景描写とともに細かな心理描写も描こうとしていることが理解できます。本書自体がサスペンスのような様相を見せるので、地の文で心理描写を明確にし、冷ややかな雰囲気の文章にしているのは、とてもいいように思えます。

 

 本書の短編で特に私のお気に入りな話が『死人宿』と『関所』です。

 

 前者は昔の彼女のために、といようりも自身のために。彼女に自分が変わったところを見せつけるために、宿で見つかった遺書の書き手を調べようとします。結果的に書き手は見つかり、主人公は彼女から一定以上の評価を得ます。主人公も達成感を得て、その日を終えます。

 が、翌朝、別の人間が自殺を遂げていることが明らかになります。

 宿にいた、遺書の書き手とは別の人間が自殺を考え、実行していたのです。主人公はそのことを知り激しい後悔の念を抱きます。この後悔の念は主人公の変化の証。その主人公に手を添える佐和子の行動も。でも、自殺を抑止できなかった、という思いが込み上げてきている主人公には、そんなことに気づく余裕なんてないんだろうなと悲しくなる話。

 このやるせなさと、どんでん返しがよかったです。

 

 次に『関所』について。

 この話では、世間だとミステリーとか、都市伝説で済ませれそうな話の中に実は事件が隠れているわけです。それを、そのまんま都市伝説として記事にしようとしていたライターが、ばあさんから勘違いを受けて殺されてしまいます。そこまでの展開が個人的には面白かったです。最初から、やけに詳しいばあさんは何か怪しいとは思っていたのですが、先輩ライターと間違えられて殺される展開にはハッとしました。

 そして、この事件は本当にオカルトとして取り上げられるんだろうな。だって、本物のオカルトっぽくて危険と疑っていた先輩ライターは、この記事を託した後輩が死ぬなんて思っていないから。しかも例の場所で。

 普段、世の中に溢れている出来事にも色んな裏があるとは思うんですが、こんなのが溢れていたら嫌だなあ。こわいなあ。

 

 表題の「満願」という言葉は、あくまでも一つの短編のタイトルから抽出されたものですが、全ての短編には各個人の願いが溢れています。願いがない話なんてないのかもしれないのですが、その願いに焦点が当てられているわけです。中には成功したものや、失敗したもの。成功したものの大きな代償を支払ったもの。どれもが浮世離れしたような展開なのに、どこかリアルで惹きつけられました。そんな感情を読者にもたせること自体が読み手としての満願だというのなら、それは成就させたといってもよいのではないでしょうか。

 

 

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真実の10メートル手前

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