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境遇(湊かなえ)を読了したので、感想や書評[レビュー]

 『境遇』(湊かなえ)を読了したので、感想を投稿したいと思います。

境遇 (双葉文庫)

境遇 (双葉文庫)

 

 

 

 本作は朝日放送でドラマ化するために制作された小説です。

 そういえば話題になってたかもなあ、と思いながらも昔のことなので、忘れていました。たぶんドラマ自体は見ていなかったと思います(笑)

 ただ、ドラマ版とはオチが少し違うみたいなので、それぞれで楽しめるようにされているみたいですね。作中に出てくる絵本も特別収録されているので、その部分も楽しめますよ!

 

 私は、湊かなえの小説を読むときにはいつも、湊かなえの小説を読むための覚悟が必要になります。それは、何だか冷たい空気感が漂う地の文が私の感覚的な意識に直接触れてきているような気がして、何だかヒヤリとするからです。その冷たさのようなものが文の印象を作っているのだと思います。

 

 本作は読者にミスリードをさせることで結末を読めなくする、といった手法はあまりとっていないと思います。なんとなく結末や事件の犯人は読者側から判断できる構造になっているでしょう。一方で、なんとなくでも犯人を予測することができるからこそ、登場人物の発言やちょっとした心理に恐怖を感じたり、不安を覚えたりします。それが読んでいて、とても良いアクセントになっているように思えました。また、そのアクセントを演出しているのが、上述している湊かなえ独特の地の文の冷たさなんだと思いました。

 

 解説文を読んでいると、湊かなえは「人は生まれた環境でその後の人生が決まるのではなく、人生は自分で作っていけるものだというメッセージを込めたい」という思いを『境遇』に込めたことが明らかにされています。私もこの意見には全面的に賛成です。

 

 人は成長する中で自分のアイデンティティを確立していきます。アイデンティティって日本だと思春期に獲得するイメージがどうしても強いですが、各成長段階で段階的に獲得するのが普通なので、老若男女誰しもがぶつかる壁なんだとも言えます。そんなアイデンティティの形成に影響を与えているのが個人因子と環境因子。晴美も陽子も出生の謎(個人因子)を抱えていますが、陽子は自我を確立するまでに里親に引き取られています。一方で、晴美は多くの時間を施設で過ごすことで生活してきました。つまり、生活環境が大きく違います。その中で晴美は施設育ちや、出生の謎に対する絶対的な嫌悪感を抱いていたと考察できます。序盤で不倫相手に対して唐突にキレるシーンもそうでした。そんな晴美に対して陽子は里親のもとで裕福に暮らし、素敵な結婚生活まで送っています。

 作中で晴美と陽子は家族のような存在になったことが記されています。しかし、二人が描く家族のカタチは同じようなものだったのでしょうか?「出生の謎」という共通点を抱えた二人ですが、幸せな家族生活を送ってきた陽子に対して、晴美は家族をイマイチ知らないまま大人になりました。恋人も不倫相手で、そこには本当の暖かな家庭など感じれそうにもありません。施設で暮らすうちに家族の話に関するタブーや嫉妬心を抱えていてもおかしくありません(全てのそのような境遇の方に当てはまる話ではありません)。そのような状態で陽子と晴美が家族の契(のようなもの)を結ぶことは、実は癒やしと地雷、どちらに転んでもおかしくない状態に追いやってしまっていたのではないのでしょうか?

 このように考えると「救いようがない晴美」になってしまいそうですが、晴美は終盤で自身の行いを改めて、自身を変えようとしています。個人・環境因子によって作られた性格を簡単に変えることはできずとも、新しい性格を上乗せすることはできるのではないでしょうか。そうすれば、嫌な自分の性格は薄くなる。自分を変えることはいつだってできる。「若い頃の自分はこうだった。周りもこうだったんだから仕方ないんだ」なんてことはないんだと思います。いつだって自分を変えるきっかけを掴むことはできる。

 どんな年齢であっても、新しい環境に身を置く人たちは、自然とこの環境が自分に与える影響の大きさを理解しているんだと思います。私も常に自分が成長できる環境に身を置けるような人間でありたいと思います。

 

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