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太陽の塔(森見登美彦)を読んで感想や書評[レビュー]

  森見登美彦の小説『太陽の塔』を読了しました。

 

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

 

 

 

 『太陽の塔』は森見登美彦の作家デビュー作であり、同時に日本ファンタジーノベル大賞を受賞しています。正直、いくつかの森見登美彦作品を読んだ後にわざわざデビュー作を読む必用もないだろうと考えて、少し避けていました。

 

 しかし、実際に太陽の塔を読み終えてみると、「あぁ、読まず嫌いしなくてよかった」と思えました。単純に面白かったというのが大きな理由ですが、デビュー作から既に森見登美彦節全開であることも大きく影響しています。なので、今までにいくつかの森見登美彦作品を読んで興味を持った人にはもちろんオススメです。素で笑えるような皮肉表現や個性的なキャラクター(腐れ大学生たち)、京都を舞台にした笑えるエピソードが山盛りです。

 

 個人的に気に入った表現は、敵対する男(遠藤)の様子を表した「玉子豆腐のようにぷるぷる震えている」という表現です(笑)

 なんじゃそりゃ、、、これは普段から使ってしまいそう、、、、

 また、遠藤とのやり取りの中で、女性に扮してゴキ○リの入ったプレゼントを送り合う場面があるのですが、この場面は本気で気持ち悪いし、本気で笑えます。個人的には、このやり取りだけを切り抜いて何度も読み返したいものです。

 

 

 もちろん表現だけではなく、エピソードとしても面白みが詰まっています。

 現在、学生生活を送っている人や、大学生活の哀れな恋に想い出があるような方にオススメです。一応、文庫本には『失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ』と記載してあります。ひねくれ者で「学生の本文は恋ではない!学問だ!」と、恋の失敗を忘れるために「自分の生き方はそうじゃないんだ!」と、無理やり自分の器をどこかに収めようとするような学生が、どのようにして自分の心と向き合い、意中の女性とも向き合うのか。この感覚はきっと誰もが味わったことがあるはずなんです。

 

 

 その過程で個人的に感じたことを述べていきたいと思います。

 上述したように主人公はとんでもないひねくれ者です。元カノ(意中の人)にストーカーまがいのことをしているし、大学の研究は半ば放棄状態。小説もそのストーカーまがいのことに関する説明や、実際にその行動をしている描写から始まります。ただ、そこでいつもと違う出来事が発生します。それは、謎の男(遠藤)にこんなことはやめろと責められてしまうのです。主人公は遠藤のことを大いに恨みます。しかし、時が経つと、その遠藤も彼女に対してストーカーまがいのことを行い、行為を寄せていることが発覚します。二人とも同じ人に想いを寄せるとんだひねくれ者だったわけですね。

 私は、この遠藤の存在こそが主人公の気持ちの変化、自分の気持ちと向き合うために大きな役割を担っていたのだと考えました。遠藤は主人公に少し似ていて、中々腐ったやつです。そんな遠藤が主人公に「彼女に電話をかける勇気がないんだ」と相談してきます。主人公はそんな遠藤に対して背中を押すような行動をしてしまいます。そして、主人公は自分が一体何をしたいのか、何をしているのかを考え、後悔します。こんな行動、今までにはありませんでした。これは、「ストーカーではない、彼女に対する研究なんだ」とか「私は偉大だ」とか様々なひねくれ語録を残して現状に満足していた主人公の前に、自分と同じ女性に好意を抱く、どこか自分に似たような男、しかも彼はどうにか彼女に想いを伝えようとしている、そんな遠藤が現れることで主人公は初めて自分を相対的(客観的)に見ることができたんだと思います。やっぱり人間が生きる世界には絶対的に表現できるものって少なくて、相対的に何かと比較することで初めて理解できるものって多いと思うんですね。主人公にとっては、それが元カノに対する自分自身の気持ちだったんだと思います。そんな主人公の気持ちの移り変わりをラストで表現しているところがとても心地良かったです。

 

 

 最後に、元カノの夢の中に出てくるもののほとんどが主人公との想い出で溢れていることや、主人公が彼女との想い出を思い返すシーンはなんだか胸が熱くなりました。是非、読んでいただきたいです。