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終末のフール(伊坂幸太郎)を読んだ感想や書評[レビュー]

  伊坂幸太郎の短篇集「終末のフール」を読了したので、その感想や書評をブログに投稿しようと思います。

 

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

 

 

 

 この作品は短篇集であるものの、それぞれの話には繋がりが多少あります。とある世界観の中で、とある団地の住民たちの決断や生活を描いたお話になります。

 

*あらすじ

 八年後に小惑星が地球に衝突することが発覚し、地球滅亡のカウントダウンが始まってから、五年が経った世界。中でも仙台にある団地「ヒルズタウン」が、この小説の舞台になります。

 地球滅亡が迫った世界では食料を巡った争いや、暴力が日常的に見受けられていました。しかし、五年の月日が経ち、世界は平穏な小康状態を迎えたようです。

 そのような世界で「ヒルズタウン」の住民たちは様々な決断を下します。それぞれが世界の滅亡をどう捉え、どう行動するのでしょうか。

 

 

 この物語の特異な点といえば、世界が小惑星の衝突によって滅亡することが決定的である、ということのみです。誰もが一度は考えたことがある『世界の終わり』を「伊坂幸太郎が小説にすると、こうなるのか」と考えさせられました。

 実際に小惑星の衝突を八年前から決定づけることは、ほぼ不可能らしく、その点は「小説ならではの要素である」と本人が言及しています。ただ、上述しているように誰もが一度は考えたことがある『終末』をいかにもファンタジーっぽくない、日常の中に上手く取り入れている点は伊坂幸太郎らしさが溢れており、読んでいてとても惹かれるものがありました。

 

 

 この作品は8つの短編で成り立っており、それぞれが微妙に繋がっていることが特徴的です。また、それぞれの話に魅力があるので、読了した後には短編として、気に入った話を何度も読み返すことも可能です。

 ただし!『鋼鉄のウール』と『深海のポール』という話だけは、とても力が入っている作品のように感じました。

『鋼鉄のウール』は実際に取材をしたキックボクシングジム、治政館での経験が活かされているようです。そこで、館長と武田幸三さんに対して取材をしているうちに「世界が終わりになっても、この人達は練習しているかもしれない」「この人達を元にした話を書きたい」と感じたことからスタートした話のようです。私はこの人達のことを実際に知りません。が、この話や、苗場(武田幸三さんをモデルにした男)の発する言葉には何度も共感させられました。きっと「伊坂幸太郎もこんな想いで取材をしていたんだろうなあ」と何度も思ったものです。特に好きな苗場(とインタビュアーの役者)のやり取りを一つだけ引用したいと思います。(このやり取りは小惑星の衝突によるカウントダウンが始まる前に存在しているものです)

 

「苗場くんってさ、明日死ぬって言われたらどうする?」俳優は脈絡もなく、そんな質問をしている。

「変わりませんよ」

「変わらないって、どうするの?」

「ぼくにできるのは、ローキックと左フックしかないですから」

「それって練習の話でしょ?というかさ、明日死ぬのに、そんなことするわけ」

「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

 

 初めてこのやり取りを読んだ時に痺れました、、、、

 終末で残り三年しか生きることができない、という設定と比較して読むことが出来たので尚更です。最後のセリフは自身の人生観にも影響を与えてくれそうだなと感じました。

 

 

「人はいつ死ぬかわからない」、それは事故なのか病気なのか事件なのか。そんなこと物心がつけば誰でも理解できるようになる考えです。一方で、人は楽観的に物事を捉えてしまう癖があります。わかっていても退屈な毎日をリピートしてしまいます。私はこれが悪いことだとは思いません。誰もが明日死ぬことを仮定して生きている世界なんて不気味だし、退屈がない世界なんて気が休まる時間がなさそうで怖い。これらは人の良い部分でもあるのです。ただ、ただ、少しでも苗場のような生き方ができるのなら、今の人生が少しでも豊かになりそうな感覚を私は覚えました。

 他のエピソードもこころに響くポイントが散りばめられています。それを押し売りすることもなく、日常的なエピソードを通して考えさせてくれるこの本を、私は大変気に入りました。