直撃 本田圭佑（木崎伸也）を読んだ感想・書評
本書は、著者がスポーツライターとして2010年から約6年間に渡って本田圭佑に直撃取材を続けた証跡を一冊の本として形にしたものである。
もともと私が本書を読んでみようと思ったキッカケは、メルカリの現会長・山田氏がブログで本書を取り上げていたことがキッカケだ。ホルンのサッカークラブの経営等の実績から日本中のビジネスマンに影響を与えている本田圭佑に日本のベンチャーでもトップを張っているメルカリの創業者も興味を抱いていたのだ。確かに読んでいると、目的への行動意識、そしてその目的の構築方法などに本田圭佑個人の特徴が出ていてとても面白い。サッカー選手としてサッカーについて論じていることが大半ではあるが、それ以上に夢を持つ者として、それをどう実現するべきなのかについて論じる言葉がとても心に響く。
以下で私が特に気に入った箇所を引用したい。
本田は腕に巻いたストップウォッチを押すと、ゆっくりとジョギングを始めた。ピッチの外側を回りながら、10分間、スピードを上げることなく、落とすことなく、一定のペースで黙々と走り続けた。
「練習前に、必ずやっていることなんですよ」
汗をぬぐいながら、本田は”習慣について“説明した。
「何気ないジョギングですけど、10分が早く終わったなと思うこともあれば、まだ10分にならないの？ と思うこともある。つまり自分のコンディションを計るパロメーターにしているんですね。1から10まで段階をつけて。それに応じて練習時の追い込み方を調節するようにしている」
ここにルーチン化の醍醐味があると思った。特に体調が影響する職業だから、このようなルーチンが役に立つのだろうけど、ビジネスマンやその他の職種にだってこのような自分を測る基準があってもいいと思う。
「だって、人生は上がるか、落ちるかのどちらかでしょ。安定っていうのは横棒の状態のことを言ってるんでしょ？ 誰かがそれを安定と呼んだだけで、僕からしたら横棒というのは下に落ちているわけで」
――確かに安定は、あとから見たら落ちているのかもしれない。
「そう。ただ、勘違いしちゃいけないのは、下に落ちるっていうことが、進化してないということではないんですよ。下に落ちるのも、次に上がるための変化かもしれない。上がるために、落ちることが必要なこともある」
――今は谷だから、次はこういう山にしようというイメージがあるということ？
「それがイメージできたらすごいけどね。大抵は自分が今から谷に向かっていますって受け入れられるものではない。トンネルをくぐっていて、それが山なのか谷なのか、いつ抜けられるかもわからない。でもなんとか、その真っ暗なトンネルを抜けたくて必死に進むわけですよ。大事なのは、その辛い時期を残念と思うのか、自分にしかできないチャンスだと思うのか、っていうところだと僕は思っている。
辛いことがあったときに、毎回ここまでポジティブにはなれないかもしれない。でも、少しでもこのような前向きな気持で取り組める時間があれば、私たちの成長はより大きな曲線を描くことができるかもしれない。
――腹が立つのにあえて訊くとは。
「自分のイラッとした感情なんて関係ないから。大事なのはそこじゃないでしょ。僕自身は真実しか興味のないタイプなんでね。偽って生きてもしゃーないでしょ」
――慰めてほしい人もいると思うよ。
「自分の心を慰めたいっていう気持ちがわからない。なんでなの？」
――やり切れないから。
「なんでやり切れないのよ？ じゃあ駄目な自分がいたとしよう。なんで駄目な自分がいたら駄目なのか？ それでいいじゃないですか。まずは自分の能力を知らないと、前に進めるはずがない」
様々な出来事と向き合う必要がある時間は、誰にでもいつか訪れる。どのような出来事であろうと、その際に私たちが向き合っているのは、実は自分自身なのかもしれない。そういう事実から自分の能力を測って次に活かすのだ。
――今日の取材の中にも、役立ちそうな話がいっぱいあった。
「まあ、やっていることはみんなとあまり変わらないんだけどね。結局、みんなが嫌がることを我慢してできるかどうかなんですよ。オレはスーパーマンでもなんでもない。ただみんなが嫌なこともやれるし、夢のためにやりたいことも我慢できる。それを本当に徹底していて、あとは人よりも思いがちょっと強いだけ。その差が結果に現れたりするんですよ」
――少しの差が、大きな結果を生み出すと。
「オレはそう信じているよね。それを信じてがんばっていかなあかん」
思いの強さとそれを支える努力。本田圭佑は、それを少しの差であると表現しているが、その差は日々生じるものであるがゆえにとても大きな差になる可能性を秘めている。私たちは、どこまで目標のために、本当は不要なものを避けることができるのだろうか。
――でも、プロの世界で成功モデルにとらわれる選手が多い中、本田くんは常に自分のやり方を壊し、新たなやり方を模索して創造している気がする。自分のやり方を変えることに不安はない？
「オレが変わろうとしているときっていうのは、なんでもポジティブにやるからさ。ネガティブな要素をどうやってかき消すかということに集中して、良いところだけを見ようとして前に進んでいかないと。未来のことなんていうのは誰にもわからない中で、信念だけが支えになる……でしょう？ 必ずきっとうまくいくっていうことを信じて努力するわけなんで。あんまりその……今ここで不安があるとかどうかっていうことも、正直に告白するっていうこと自体が、自分の中にある弱さみたいなものを引き出す可能性があるし。そういうことはする必要がない」
――破壊する時、不安は口に出さないほうがいいと。
「まあ、変えると言っても、基本的に今までやってきたことの延長線上に今がある。自分にとって2013年も、その考え方は大きく変わることはない。細かい要素のところでは、当然ながらトレーニングのやり方が変わった、っていうのはあるけどね。基本的には選手としての本田圭佑っていうのは、あくまでも人間としての本田圭佑に基づいて形成されているから、やり方が変わっても関係ない」
まるで自分に言い聞かせるためだけの言葉にも思えるが、このようなポジティブな思考は絶対に必要だ。ネガティブな思考に支配されているときに立てた計画はすごく保守的であったり、狭い世界の中で生きていることを実感させられるものに終始してしまう。反省はするけど後悔はしない。このスタンスをまずは、大切にしてみようと思った。
「人間って、気が緩んでいないと自分では思っていても、気が緩んでいるものだと思うんです。それをどうやって引き締めるかといったら、もうくどいほど、自問自答するしかないと思っているんですね。大丈夫かと。準備はちゃんとできているかと。くどいほどやれるかどうかが僕はキーポイントだと思っている」
有名な一節ではないだろうか。スポーツ選手ならではの気の引き締め方ではあると思うが、ビジネスマンはあまりこのような自問自答をしないような気がする（ネガティブなときにはしているかもしれないが）。本来、自問自答は目標への到達を測るためにどのような人であっても日々行うべきことなのかもしれない。私は目標を策定し、PDCAサイクルの循環を恒常的なものにし、それらを実現するために自問自答を繰り返したいと思った。
○読後のおすすめ
本田圭佑は、自分が描く理想の姿になるために数多くのことを捨てている。それに関する記述を読んでいるとエッセンシャル思考について思い出さざるをえなかった。私が知っているいわゆる自己啓発本の中でもエッセンシャル思考は最も素晴らしい一冊だ。
異業種に学ぶビジネスモデル（山田英夫）を読んだ感想・書評
様々な業界のビジネスモデルについて知りたいと思うことがあった。キッカケは、メルカリについてのニュースを見ていたときのことである。ラクマのように無料優待を強めに設定している同業があるにも関わらず、これだけ使用されているビジネスって何が良いんだろうか。そのような疑問が、ふと私に生じた。そこで考えられたメルカリの良さの一つにビジネスモデルがしっかりと組まれていることがあった。そして、色んな業種のビジネスモデルについて学んでみたいと思ったのだ。
本書では様々な業界のビジネスモデルを取り扱っているだけでなく、それらのビジネスモデルが全く違う業界のサービスから転用されてきたものとして捉えることができる点を丁寧にまとめてある。それらの情報を読んでいて思ったことは、このような戦略的なビジネスモデルを組むためには、知識が必要だということだ。
知識が必要だなんて、とても当たり前のことのように思えるが、今の世の中では、分からないことは検索すればいいという考えが強く広まっていて、知識や教養を身につける習慣が離れてしまっている。社会人になると仕事ベースでの知識習得が必要になっていて、仕事に直接的に関与しない知識や教養を身につける時間は、思いのほか用意することが困難だ。
しかし、本書で紹介されている事例は、起業家が仕事ベースで身につけた知識だけでなく、生活していて、勉強していて、自然と身についた知識を転用したものもいくつかあるはずだ（あくまでも推測なのは、起業家の語りが、本書にあるわけではないから）。僕は、常に色んなことを知って、様々な場面で応用的に使える人間になりたいし、その一つにこのような形があればいいなと思う。
近年、ネット環境の充実などで、単純な製品の善し悪しが顧客の満足度に大きく影響するようになってきた。これまでの売り方の側面が占める割合が減っていると言えるだろう。それでも売り方や今回学んだビジネスモデルが与える影響も多大であるはずだ。以降もビジネスモデルについて学んで、世の中の様々なサービスの仕組みを見る目を養いたい。
○読後のおすすめ
ネット普及によって爆発的に広まった無料からお金を生むビジネスについて取り上げた一冊。読んでいて気付かされる視点がいくつもあった。
たそがれ清兵衛（藤沢周平）を読んだ感想・書評
村上春樹が文章の上手い小説家として絶讃していたのが、藤沢周平である。僕は村上春樹のエッセイでその一文を読んで本書を手に取った。当時の僕は、風景描写の上手い小説家の本を読みたいと思っていたのだ。そして本書は僕のそんな期待に応えてくれた。
風景描写の上手さについて、僕がどれだけのことを語ることができるのかという不安はある。しかし、それでもなお僕が感じたことを述べさせていただくと、藤沢周平は必要以上に書ききらないことが風景描写の上手さに繋がっているのだと思う。必要以上に描かれていることで、それ以上を想像する余地のない文章は世の中にたくさんある。もちろん、そうやって言葉で規定してあげないと必要以上に想像されてしまう文章だってある。どちらに転がすのかは、書き手の裁量であって、その裁量の持たせ方が上手いのが藤沢周平なのだと思った。
また構成もうまい。風景描写同様にすべてを描くわけではないのだが、物語の進み方から多くのことを察する余地が与えられている。それが次のページを捲るための原動力や欲求につながっているのだ。勧善懲悪の世界観が浸透している時代小説で、この原動力を生み出す物語の構成は流石だ。この構成の上手さも村上春樹を唸らせた一つの要素なのかもしれない。
さて、本書は妙なあだ名をつけられた男に焦点が当てられている。江戸時代でもこんな文化があったのか、と思ったが、人間の営みなんていつの時代もそう大きくは変わらないのかもしれない。さて、そんな妙なあだ名をつけられた男たちには隠している力があった。それが剣技だ。彼らはいつの間にか権力争いに巻き込まれていて、自分が大切にしたい何かを守るためにその剣技を使う。自分を飾らずに想いのために力を使うところが最高にカッコよかった。そういうところは時代小説の良さだなと再認させられた。近いうちにまた藤沢周平の本を読んでみようと思う。
○読後のおすすめ
せっかくなので、次は長編小説を読んでみようと思う。
藤沢周平に関する記述がある村上春樹の著作。村上春樹がどのようにして執筆しているのかが明かされている。僕はその気概に惚れ込んだ。
星やどりの声（朝井リョウ）を読んだ感想・書評
朝井リョウの作品には、何かが欠けていることが多い。
これは技量不足であることを伝えたいわけではない。物語の中に核として存在している何かが、存在しているわけではないのに、周囲に大きな影響を与え続けていることを伝えたいのだ。例えば、彼のデビュー作である「桐島、部活やめるってよ 」では、校内で大きな存在感を放っていた桐島という男子が、部活を辞めたことによって周囲の生徒に与えた影響について、またその生徒たちの心理についてを描いているが、そこに大事な桐島の姿はない。タイトルにもなっている大事な桐島の存在はないにも関わらず、生徒たちの中心に位置していた桐島の不在が与えた影響と、学生の心の機微を感じることができる作品になっている。
本書も同様に、登場人物たちにとって大切でかけがえのない存在である父は不在である。そう、彼は数年前に癌で命を失っているのだ。
父が残していることは、物語の中でとても大きな力で彼らに影響を与える。桐島が意図せずに周囲に影響を与えていたのに対し、本書で父が残した影響の輪は意図的なものである。父が残したお店だけではなく、悩みながらも必死で前に進む六人兄妹の彼らにも父の残した遺産は引き継がれていた。そのトリックは、単純に読んでいて感心させられると同時に、胸がかっと熱くなる瞬間を感じることもできる。このような強固な絆で繋がっている家族を、僕はとても羨ましく思った。
本書を読んでから僕の生活を振り返ってみても、この「不在が為す存在」は、大きな影響を周囲に与えることを実感することができる。例えば、大切な親族が亡くなったとき、心許せる同僚が職場を離れたとき。いなくなって分かることがある。そんなことは誰もが知っているのに、それらに対する耐性は一向に身につく気がしない。僕たちはそれぞれの別れに対して、それぞれの備えをする必要があるのだと思う。
朝井リョウは、相変わらず繊細な心の表現が上手い。本書では、何度か視点が揃っていない文書を見かけることもあったけれど、それでも彼らの心理描写を違和感なしに描こうとしている真摯な姿勢が伝わってきた。あまりに文学的すぎず、でもしっかりと描こうとしているところが朝井リョウの良さだと僕は思っている。若者の読書離れが頻繁に取り沙汰されているのを見るが、そのような人にはぜひ朝井リョウの本を読んでみてほしい。
○読後のおすすめ
僕が最も好きな朝井リョウの小説。若者の目線に寄りすぎて読みにくい文章も、その人となりを表すのに大事なのだと感じた。また、表題にもなっている「もういちど生まれる」という短篇が素晴らしい。
「不在」という言葉から僕が連想したおすすめの小説だ。「不在」というよりは、タイトルのとおり「喪失」を描いた物語になるのかもしれないが、心の中にぽっかりとできる空洞が、むしろ読み手に心地よさを抱かせる。
「あったらいいな」を実現するビジネスのつくり方-ひとりではつくれない価値をみんなでつくる-（山中哲男）を読んだ感想・書評
「あったらいいな」を実現するビジネスのつくり方 -ひとりではつくれない価値をみんなでつくる-
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山中哲男 パブラボ 2014-05-06
以前にどなたかのブログを拝見していると、本書に関する書評が記載されていた。正直なところ、その時は、そこまで本書に関して印象が残らなかったのだけれど、なんとなくAmazonで本を漁っているときに本書のページを見つけて、興味が湧いたので購入した。
本書の内容はタイトルの通りだ。著者が「あったらいいな」と感じたサービスをどのように実現してきたのか、そしてそのノウハウを公開している。あまり細かな内容にまで触れることはできていないので、とても細かなレベルで実現方法を求めている人たちは、本書を読んで落胆するかもしれない。しかし結局のところ、そのような細かな現場レベルでの話は、自分たちが体験することでしか身につけることができないものなのではないだろうか。そう考えると本書は、そこに至るキッカケを掴むためには丁度良い本なのかもしれない。
本書の特徴は、ビジネスの進め方に関する記述だろう。「あったらいいな」を実現するために、二つのことを著者は提唱している。それは、「サービスの質を高めてニッチに選んでもらう覚悟を持つこと」と「目的に沿ったメンバーを集めること」である。また、後者では、説得する際にいきなりお金の話をしないことを注意点に挙げている。この提唱に著者の考え方や強みが表れていると感じた。例えば、著者は自身の強みをリーダーシップ・チームをまとめる力だと自己分析している。それ故に、仲間を集めて、不足分を補いながらビジネスを創り出すことを実行に移したのだ。
そして著者は、この「あったらいいな」を実現するステップを５つに分解している。
①自社の強み・軸を見つける。これは著者のリーダーシップのような定性的な強みでもいい。
②強み・軸をベースに「あったらいいな」を実現する。
1、新しい価値の創造。普段の疑問を解消するあったらいいなを考える。
2、ターゲット選定。ニッチに価値を提供することを考える。必要性があって欲しい人に訴求する。
③ビジネスに必要な人を関係図にまとめて、必要な仲間を集める。勧誘する際には、説明資料を使って、サービスイメージが明確になるように努める。
④ビジネスをつくるための準備運動をする。結局は人がビジネスをつくる。「あったらいいな」を実現するために意味のある仲間が集まっていることを確認し、ビジネス発足に向けて動き出す準備を始めるのだ。そのために3つのことを理解する。
1、仲間のキャパシティを知る。これは普段の仕事の進め方だけでなく、時間のリソースなども含む。
2、仲間の力量を知る。その人のスキルや業務範囲などを知る。
3、仲間のクセを知る。これは、コミュニケーションや仕事のクセを指している。
⑤マーケティングをする。自分たちのための事業計画書を作ってみる。ここで身近な「これがあったらいい」と実感している人たちに自分たちのアイデアをぶつけてみる。そこで得た反応をサービスに反映させるのだ。
最後に本書の特徴でもある「仲間」との関係性についての記述をまとめたい。
それは、内製化とアウトソーシングの判断基準についてである。それは三つある。
①キャッシュが生まれる場所かどうか。大事なキャッシュポイントは、自分たちが確保する必要がある。
②取るべきポジションかどうか。職人部分はアウトソーシングの方が品質は良くなる。
③お客様とのコミュニケーションつながり。アウトソーシングした結果、お客様との関係性が悪化する場合は、別の仲間を探すことや内製化の検討が必要になるだろう。
著者は、パートナーに仕事を委託する場合は、彼らが平常行っているサービスの金額で受諾してもらうようだ。営業費や広告費が浮くはずなので、そこをインセンティブとしてもらうように提案し、契約しているそうだ。このような裏側の話は、非常に見えにくいので参考になった。
このような大まかな流れで著者の「あったらいいな」は実現されてきたそうだ。本書を読んでいると自分にもできるような感覚がしてくる。しかし、冒頭で記述したように、結局は行動ありきなのだ。本書によって影響を受けた方は、ぜひ起業や社内でのアイデア実現に活かしていただきたい。
潮騒（三島由紀夫）を読んだ感想・書評
一週間ほど前、ふと僕は風景描写が上手い小説家の本を読みたいと思った。一年ぐらい前の僕は、心理描写に特徴のある文章が好きで、そのような特徴を備えている小説や作家を探していた。しかし、心理描写以上に風景描写や人物描写が優れた作品のほうが、その文章を想像する余地があることに気がついた。つまりそれは、読み手の中で一つの文章が無数の形になり得る可能性を示唆していた。僕はこの可能性についてもっと考えてみたいと思ったのだ。
そんな僕が三島由紀夫に至るまでの道程はとても簡単に説明することができる。グーグルで風景描写が上手い小説家について検索し、色んな年齢層の読書家が三島由紀夫を推しているのを知ったのだ。なぜか偉大な作家が書いた純文学作品には抵抗が生まれやすい僕だったが、目的にも沿っているし一度読んでみようかと決意した。それからAmazonで注文し、その日の晩には手元に本書があるのだから、昨今のテクノロジーの進化はすごい。
実際に読み出すと僕のページを捲る手は止まることをしらなかった。まるで今そこに存在しているかのようにリアルな島の姿と島民の生活、音、匂い。そして、そこで生まれる恋のカタチ。ここで描かれているのは普通の恋愛物語だ。予想を裏切るような要素はないので、結末はなんとなく先読みすることができる。しかし、それでも尚、最高の読書体験がそこにはあった。もちろん僕が求めていた風景描写の良さもあった。そうでなければ、島民の生活について感じることなんてできやしない。そして、三島由紀夫がとても構成にこだわる作家であろうことが推察できた。すべての文章が一つの物語のために構成されていることは明確であったからだ。僕は描写だけではなく、その点においても三島由紀夫の優れた能力を垣間見ることができた。いずれ代表作の金閣寺も読んでみようと思う。
○読後のおすすめ
描写力に定評がある現役の小説家と聞いて私の脳裏を過るのが桜木紫乃だ。直木賞も受賞した本作は、とあるラブ・ホテルが物語の舞台となっている短篇集となっている。人の心理描写を行動だけではなく、風景やその人物が見る景色から描いている。
村上春樹も下を巻く文章力に定評のある小説家と言えば藤沢周平だ。本作「たそがれ清兵衛」もそんな描写力が光っている。当時の街の状況やその中で生きる人物たちの世界がすっと頭に入ってくる。
グーグルに学ぶディープラーニングを読んだ感想・書評
近年、ビジネスに大きな変化をもたらすであろうと目される技術として「人工知能」が挙げられる。具体的な実装技術を記した本が出版されれば、既にある事例や今後社会に与える変化について焦点を当てた記事や書籍が出版されるようにもなった。ここまで様々な媒体で目にしていると心のどこかで気にかかっている・気になり始めた人も多いのではないだろうか。かくいう私もその一人である。
そもそも「人工知能」や「ディープラーニング」という言葉（技術）の違いとはなんだろうか。「人工知能」という言葉は様々な解釈がなされることが多い。技術的観点だけではなく、哲学的な観点も加わってくるので、素人目にはかなり判断が難しい。現時点では、「知的な処理をしてくれるもの」という大まかな概念で捉えてしまっていいのではないだろうか。その「人工知能」という大枠の中に「機械学習」という技術があり、その機械学習という大枠の中に「ディープラーニング」という技術があるのだ。つまり「ディープラーニング」や「機械学習」は、「人工知能」を実現するための方法であって、並列で語られる技術ではない。
この「ディープラーニング」という技術の面白いところは、機械に学習させることにある。いくつものデータとそれに対する答えを用意することで、機械に学習させる。そして、インプットしたものが適切なアウトプットになるように内部のアルゴリズムを機械自身に構築させるのだ。今までは、プログラマーが必死になってアルゴリズムを考えてきた。これを機械が考えるというのが大変面白い。決まりきった答えを出すようなシステムではなく、ある種芸術的な答えを出したい時に人工知能はどのような答えを出すのだろうか？ 人工知能の創作した著作物に対する考えた方はまだまとまっていないらしいが、それに対する対応も早急に必要になるかもしれない。というのも、グーグルが提供するAPIやテンソルフローの影響で想像以上に身近なところにディープラーニングを実装するチャンスが眠っていることが明らかになっているからだ。ディープラーニングはビジネスだけに影響を与えるものではない。ぜひ、本書を一読いただいて、これの活かし方を考えていただきたい。
最後に下記の一文を引用して終わりたい。ビッグデータというバズワードの二の舞いにならないように、この言葉を本書に載せたと思うから。
「人工知能は魔法の杖のように思われがちですが、やはり使い方があります。何をどうすれば業務をよくできるのか。それを定義して、業務上に相関するデータは何なのかを探っていく必要があるのです。データからは答えは出てきません」
結局はこれらもツールなのだ。どのようにどう活かすかは、その人次第で大きく変わる。
○読後のおすすめ
ゼロから作るDeep Learning ―Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装
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斎藤 康毅 オライリージャパン 2016-09-24
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