本を読むこと-読書から何かを学ぶためのブログ-

読書のプロフェッショナル目指して邁進中。小説からビジネス書まで取り扱うネタバレありの読書ブログです。読書によって人生を救われたので、僕も色んな人を支えたいと思っています。noteでも記事を投稿しています。https://note.mu/tainaka3101/n/naea90cd07340

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 以前にエッセンシャル思考という本を読んだ。そのときの僕は、色んなどうでもいいようなことに対して我慢をして頷いているような人間で、いつの間にか心がとても疲弊した状態にあったようだ。このような心の疲弊の恐ろしいところは、自分では何となくわかっていても、それを止められないことが多いということだ。僕もそうだったと思う。その際、エッセンシャル思考を読んで、「自分にとって大事なことに集中することの大切さ」を身をもって学び、自分が大切だと思うことに集中するためにどうすればいいのか、を考える時間が増えた。本書を読んだのもその一環である。

 本書は著者の経験より「何か一つのことに力を注ぐと圧倒的な成果を得ることができる」ということを提唱している。個人的に面白いと思ったのは、その考え方を妨げる、世にはびこるいかにも真実らしい6つの嘘に対する懸念だ。以下でそれらを紹介する。

 ①すべてのことは等しく平等という嘘

 これは特に自分が携わる仕事やそれらが残す成果について述べられている。成功者は全ての仕事を平等にこなしているわけではない。結果的に依頼された仕事を全部こなしいているのだとしてもそれは、優先順位を決めて、その中で取り組んだ成果なのだ。このような人は、総じて優先順位の構築に時間をかけている。また、成果は平等ではない。パレートの法則というものがある。原因と結果に不均衡が生じていることを提唱する法則だ(20対80が有名)。自分が力をかけたものが結果を生んでいるとは限らない。だから成功者はその後の成果の20%の部分を見る。そしてその20%の中のさらに20%を見る。そうして原因と結果の追求を怠らない。

 ②マルチタスクは効率的という嘘

 「マルチタスキング」という言葉はコンピュータの働きを現すために必要となったのだが、コンピュータだって高速で一つ一つの仕事をこなしているだけで、決してマルチタスクができるわけではない(並列でこなしていることもあるが、それはかなり作業単位のタスク)。じゃあ人間の脳はどうなのか。脳は一度に二つのことをするとき、それを一つ一つに分けて処理をする。脳の回路の構造上、二つの行動はできるが、二つの行動に集中することはできないのだ。また、こんな実験結果がある。仕事中の意識の切り替えについて調べた結果、平均11分に1回邪魔が入り、私たちは一日のほぼ三分の一を中断した遅れを取り戻すことに費やしていたらしい。職場によって結果は異なれど、これはかなりショッキングな知らせである。このように僕たちは仕事で大きな犠牲を払っている。これについて著者はこう述べている。「時間がないからではない。限られた時間に多くのことをしなければならないと感じているのだ」と。

 ③規律正しい生活が必要という嘘

 人が何かで失敗したとき、頻繁に語られるのが「もっと良い習慣を作らないと」というものだ。しかし著者はこれにも疑問を投げかけている。「成功するためには正しいことを行う必要があるが、全てを正しく行う必要はない」と。つまり自分の目的に沿ったものだけを大切にし、それを習慣づけることが大事なのだと語っている。そして、習慣は約66日で形成されるという研究結果がある。僕たちの脳はいつもと違う習慣に当たると、それに対して「いつもと違うけど大丈夫!?」と疑問を呈すると以前に本で読んだことがある。それを日々乗り越える。それが約66日続けば目的にぐっと近付くのだろう。二ヶ月はとても長い闘いにも思えるが、自分が本当に重要だと思う一つのことを叶えるために、毎日を闘うのだ。それは大きな喜びにいずれ変わるし、世間の考える大きな成功までの距離感を、長距離走から短距離走へとパラダイムシフトしてくれる。

 ④意思の力は万全という嘘

 「マシュマロ・テスト」という有名な実験がある。簡単に言うと「目先の利益とその後の大きな利益、どちらを取るか」というテストで、7割は目先の利益を獲得した。しかし、その後長期的な目線で見ると残りの3割が成功を収めているというのだ(成績優秀・ストレス管理能力優秀など)。また疲れているときには、このような場面で安易な思考に陥る可能性が何度もあるそうだ。人間は様々なところで選択を強いられていて、その度に力を使っている。そのため意思の力はすぐに疲弊してしまう。だから大事な決断や仕事は可能な限り朝にすると良い、というのが著者の主張だ。そういえば将棋の棋士は対局中にものすごい量の糖分を摂取している。脳の疲労に対する一つのアプローチになるだろう。

 ⑤バランスのとれた生活が肝心という嘘

 全てのことに注意を払おうとすれば、全てのことに注意不足となってしまう。①でも述べたところと被る。大切なのは一つに絞ること。しかし、これは「家族」か「仕事」かを選べというものではないので注意。「家族」「仕事」……の中で、ただ一つこれに絞れば他のことも解決できるようなものはなにかを問い、それぞれにおいて素晴らしい成果を残すというのが本書の主張だ。

 ⑥大きいことは悪いことという嘘

 大きい成功のためには何かを犠牲にしたり、甚大なプレッシャーが伴うという嘘について述べている。また大きな目標を掲げている人間に対して「それは無理だ」と言う人間がいるが、その人の限界を知るものはその時点で誰もいないのだから気にするな、というのが著者の主張である。個人的には理由をもって意見する人はここで否定している人とは違うと思うので、そこは勘違いしないようにしたい。また大きな目標に到達するには日々の習慣(小さな的)が大事であることも忘れてはいけない。

 

 これら6つの嘘に対する懸念を自分の中で払拭することができれば、次は自分への問いかけが必要だ。自分の掲げる目的に沿った、たった一つこれに絞れば他もすべて解決するようなもの。そう自分に問いかけることが必要だ。優れた問いは、優れた答えを生み出す。成功者は答えを出す作業以上に問いの構築に時間をかけるのだ。

 そういえば本書の中にこんな文章があった。世界的にも有名な小説家であるスティーブン・キングが「小説は朝の四時間にしか書かない。あとは家族や自分の趣味の時間に充てている」と著作で述べていることを紹介した本書の著者にた対して、それを聞いた聴講生が「なるほど、確かにそれはスティーブン・キングにとっては簡単でしょう。なんといっても、彼はスティーブン・キングですからね!」と言ったそうだ。それに対して著者は以下の通り述べている。

そこで私はこう言う。「あなたはご自分にこう聞いてみる必要がありそうですね。彼はスティーブン・キングだからそうするようになったのか、あるいは、彼がそうするからスティーブン・キングなのか?」

 これは習慣の力と大切なことに意志力が満ちている時間を割くことの大切さを端的に僕に伝えてくれた。僕はエッセンシャル思考で大きな枠組みの中で自分が大切にしているもの・したいものを知ることができたと思っている。そして本書を読むことで、それを少し細分化して行動に落としていくうえで大切なことに気がつくことができた。しかし、本書の自分への問いの部分は僕の中でまだ納得がいっていない。(一度読んでいただきたいが、本記事ではそこに対する言及を割愛している。)だから次は「問い」の質を高める本を読むことで自分の目的に対する生産性を上げていきたい。

 

○読後のおすすめ

魔王(伊坂幸太郎)を読んだ感想・書評

 本書に関する書評依頼を読者の方より受けたので、本記事を執筆する。様々な 本に関する知見を深めたいと考えているので、ぜひコメントいただきたい。

 実は、僕は「魔王」の姉妹作(というよりも、ほぼほぼ続編)の「モダンタイムス」という作品を読んだことがある。作品自体は伊坂幸太郎が抱える社会にある見えないシステムに対する不安や、その中でどう行動するのか(システムへの対峙や逃避)が物語の中に盛り込んであって、「あなたはどう生きていくのか」という示唆を受けたような気がした。その中でときおり不明な固有名詞があったりなんかして、「これは何だろう?」と気にかけていたのだが、それは本書ですでに取り上げられているものであったのだ。読む順番が僕のように、本来とは逆になったとしても十分楽しむことはできるのだが、可能であれば魔王を先に読むべきだ。その方が物語のつながりが見えやすいので楽しめるだろう。

 読む順番が影響を与えるのは、読みやすさだけではない。作者の伊坂幸太郎がどのような思いでこれらの小説を書き上げたのかを推測できる、と僕は考えている。「魔王」では表面的に見れば、何かが起こったような気配は全くない。悩みやすい男とその弟が物語の中心にいて、彼らやそこに近しい人目線で見れば、実に様々な出来事が起こっている。が、社会全体で見れば大きな流れのようなものがあって、誰もがそちらへの注目にとらわれていて、そこに懐疑的な見方をしている人間を訝しみ、ときには排除するような行動を見せる。かつての小説家はここでいうところの「排除される人」だったと思うのだ。一つの出来事が社会や人に与える影響を考え、小説として世に出す。伊坂幸太郎はこのような役割の一端を担っていることを自覚し、漠然とした社会に対する不安をここに小説として記していると思うのだ。

 一方で、モダンタイムスでは魔王に比べると具体的な行動が描かれている。魔王の要所要所で兄が発言していた「小さな対峙や行動が、いずれ世界を変える」可能性を小説として、形にしていると思うのだ。伊坂幸太郎は魔王を刊行した際に様々な批判を浴びたという。そこで自分は結局何を書きたいのかを自問自答したのではないか、と僕は思っている。僕の考える小説家の伊坂幸太郎像は、とても小心者だ。自分が書いた政治的な小説で世界を本当に変えることなんて全く狙っていないだろう。それよりも自分や弱者が「こんなことがあればどうするんだろう」「こんなことがあれば怖いよな」「こういうときどうできるんだろう」と想像を巡らしている小説家だと思うのだ。そういう不安が「魔王」という形を成したし、その後にもっと小さな単位での行動案に落とし込んだものが「モダンタイムス」になったのではないかな、と思った。

 

〇読後のおすすめ

 

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

 

  魔王の続編のような作品だ。魔王の文庫本あとがきにも記されているが、「呼吸」の続きが気になるのならば必ず読むべき。また、魔王だけを読んでモヤモヤした心持を抱いた人はぜひ読んでいただきたい。

 

bookyomukoto.hatenablog.com

  すでにモダンタイムスを読了している方に向けて書いた記事である。

 

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

 

  モダンタイムスとほぼ同時期に執筆された作品だ。大きな流れがもしも個人を攻撃したら……そんな不安から生まれた作品ではないかと思っている。個人的には伊坂作品でも最もおすすめしたい小説だ。

 

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)